今週のおすすめ本


ブック名 三屋清左衛門残日録
著者 藤沢周平
発行元 文春文庫 価格 579円
チャプタ
@醜女
A高札場
B零落
C白い顔
D梅雨ぐもり
E川の音
F平八の汗
G梅咲く頃
Hならず者
I草いきれ
J霧の夜
K夢
L立会い人
M闇の談合
N早春の光

キーワード 隠居、人生、セカンドライフ
本の帯(またはカバー裏)
日残りて昏るるに未だ遠し

気になるワード
・フレーズ

・自身の隠居と惣領又四郎の家督相続。外からみればたったそれだけのことだが、藩に願い 上げてから、それが承認されて又四郎が城に出仕するまで、実際にはさまざまに煩瑣な 手続きとひととの折衝が必要だった。
・これで三屋家は心配がない、と相続にからむ一切の雑事から解放されたとき、清左衛門は 思ったのだが、その安堵のあとに強い寂寥感がやって来たのは、清左衛門にとって思いがけない ことだった。
・清左衛門は一念発起して、十日に一度は紙漉町の無外流の道場に通い、ほかは釣りに 出かけたり屋敷畑に降りたりしてもっぱら身体を動かすことに専念していた。

・政権を争うことになれば、単純な理屈の言い合いで事が決るわけではなく、藩内にどれだけ 支持勢力をまとめることが出来るかが、勝敗をわける鍵になって来る。
・親は死ぬまで子の心配からのがれ得ぬものらしいという感慨がそれである。
・そして床について三日ほどすると、急に足が弱くなって起き上がると身体がふらつくのにも おどろいた。ふだん釣りに出かけたり道場に通ったりして足腰を鍛えているつもりでも 齢はあざむけぬと清左衛門は思った。

・清左衛門は手厚く扱われていた。そのことに感謝こそすれ文句を言うのは筋違いというもの である。だが、その手厚い庇護が連れ合いを失った孤独な老人の姿をくっきりとうかび上がらせ るのも事実だった。その老境のさびしさは、足もとを気遣いながら紙漉町の道場にたどりつくまで、 清左衛門につきまとった。病は気も弱らせるものかも知れなかった。
・その平八の突然の患いである。清左衛門にはひとごととは思えなかった。 むろん自分にも中風になりそうな徴候があるというのではない。

かってに感想
時代小説、初めての藤沢周平の作品である。
実在の人物ではない。
だから、司馬遼太郎の作品や吉村昭の作品に比べれば、その迫力にはかけるかもしれない。
また、そんな歴史小説が好きな私にはいささか物足りないものがあるようだ。

この小説の主人公の時代のように、「隠居」という文字と、 今の時代の「定年」とはかなり違うのではなかろうか。
ある意味、効率とか時間に追われて生きている現代とは違い、ゆったりと場面が動いていた ような気がするのだ。

小説の第一編では、息子に家督を相続し、「隠居してあとは悠々自適の晩年を過ごしたいと 心からのぞんでいたのだ」なんてあるが、このままほんとに隠居なら小説にならないのだ。
だから、そこに同じ年代だが、まだ隠居していない藩の佐伯奉行を登場させ、藩内の 派閥争いを絡めて小説を面白くさせている。
最後には、派閥争いも解決し終わるのだが、本当の意味での主人公の「隠居」はこのあとかもしれない。

読み進めながら、勇退してもしばらくは組織と関わり続けていたいという、男の願望が描かれている。
だから、もうすぐ自分が迎える、セカンドライフにはほとんど参考にならない。
しかしながら、佐伯奉行といつも飲み交わす小料理屋、そしてほのかに心を寄せる女将との関係。

若い頃、剣の道を志していた、再び一念発起して道場通いを始め、そこでの 新しい人との関わり。
そして、昔の仲間が絡んだいろいろな事件に関わり、解決していく結果から生れる人の縁。
過去藩主の側近をしていた関係から、藩主の求めに応じて藩士の行動を報告した結果、左遷になった ことが、ずっと気になっていた主人公。
そんな諸々の人との関わり以上に、妻を亡くし何かと世話を焼いてくれる嫁との絡みが微笑ましい。

藩との絡みを除いて、「隠居」を考えてみると。
第一編に多くの「隠居」した人間の心情が吐露され、大いに参考になる。
「隠居」一言で言うならば、「それまでの清左衛門の生き方、ひらたく言えば暮らしと習慣の すべてを変えることだったのである」なのだ。
いままさに、団塊世代が定年を迎え、組織を去ってセカンドライフをどうするかの瀬戸際である、 心したいものである。

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