今週のおすすめ本


ブック名 箱根坂(中)

著者 司馬遼太郎
発行元 講談社文庫 価格 619円
チャプタ
①征途
②富士が嶺
③太田道灌
④興国寺城
⑤伊勢の弓
⑥歳月
⑦空よりひろき
⑧丸子(まりこ)の駿府
⑨急襲
⑩面白の都や

キーワード 御家門衆、譜代衆、統治、農業、租税
本の帯(またはカバー裏)
守護今川義忠の死による混乱を鎮めるため、早雲は駿河に下り、嫡子竜王丸を後見する。

気になるワード
・フレーズ

・念者とは、この時代の人間の一典型をいいあらわすことばである、物事に念を入れすぎる性格 やそうゆう物の言い方、あるいはそんな性格の人物をさす。
・花が青葉になり始めるころ、田原から大道寺太郎がやってきて早雲以下7人になった。 この7人の牢人が、伊勢の津から帆をあげて船出した。7人の船出については、のち、古記録などに さまざまに潤色されて伝承した。
・この時代、教養には3つの柱があった。2つは「儒仏」である。しかし儒教と仏教だけでは、 1人前とはされず、「歌学」がことさら重んじられた。歌学とは、日本語としての磨かれた詞藻、 もしくはおのれの詞藻のみがきかたといっていい。

・早雲が、国人たちのあいだで信望を得たのは、ひとつには農業経営の知識がふかかった ということもある。
・この時代、人を評する上で「器用」という言葉がしきりにつかわれていたことを思わねば ならない。器用は、後世、その意味が衰弱したが、この時代での器用は、華やいで実がともない、 さらに清潔だという語感であり、人に対してこの上もないほめことばであった。
・「連歌師には、なんの力もござらぬ」と宗長はいう。兵もなく、城もない。刀槍すら 帯びていない。しかし、身分制の外の者であるということが、連歌師のもつ大きな力だった。 それに、大方の尊敬を得ているということも、である。

・早雲が、駿東の浜ちかくにそびえる愛鷹山のみなみのふもとの興国寺城に入ったということを 太田道灌は江戸にもどってから耳にした。「早雲は、やはり食わせ者であったわ」
・早雲は農事の面倒をよく見た。若い寡婦がいればよき夫をさがしてめあわせてやり、郷々の 利害のあらそいには、じかに首をつっこんで調停し、排水のできそうな土地を見ると、村々から 次男、三男を募り、銭を貸して工事をさせ、新田を開いて住まわせた。また式目(法規) というものを好んだ。扶持をあたえている侍には、彼らのための式目をつくり、百姓には百姓の 式目をつくった。また侍にも、百姓にも、読み書きを勧めた。 租税は安かった。この安さは隣国の伊豆の百姓たちにまできこえていたほどで、他国ながら伊豆 には早雲の名を慕う者がすくなからずいた。

・礼法の家としては、小笠原、伊勢のほかに今川家もはいっていて、三家とされているのだが、 その面での卓越した人材がでなかったために、名のみで実はなかった。
・いつの世も、ひとびとはおのれが生きることに精一杯で、他をかえりみるゆとりも心の 軟らかさも持とうとはしないのである。
かってに感想
司馬作品だからであろうが、歴史小説は面白い。
中の巻は、守護今川義忠の死による混乱を鎮めるため、京都での放浪生活に終止符を打ち、 早雲は駿河に下る。
いよいよ城取りである。

早雲の人集めが始まる。
と言っても、上の巻で登場していた人物たちである。
早雲以下7名の牢人が伊勢の津から帆をあげて船出したのだ。

このあたりのことは、古記録(『続群書類従』『異本・永亨記』) などにさまざまに潤色されて伝承されているらしい。
「富士が嶺」のチャプタがそれである。
何か、黒沢明監督の三船敏郎を主人公にした、「七人の侍」を思い出してしまった。

映画のような人海戦術の迫力はないが、歴史を後から脚色するに十分な城取りである。
と言っても、早雲のやり方は、とにかく領内の各地に家来を派遣し情報収集することから始めるのだ。
さらに、領内を境にした、隣の守護の関係、京都との関係、も同じように情報収集する。
そして、自分の役割を明確にする。

あくまでも、「わしの駿河での役目は、竜王丸様の成人を見とどけるのみだ。 それまでは旅人にすぎぬ」であるということ。
越境の上杉勢の太田道灌と気脈を通じて、脅威を取り除くとともに、あたかも守護のごとく 駿府の舘に居座る「今川新五郎範満」の説得も、頼むのである。
そして、自分が領内のどこに住むかという、どのような形で統治するかということを、 綿密に練ったうえで行動を起こすのだ。

当時は、京都の将軍は政治らしい政治を一切していなかったらしい。
守護と地頭により各領内が治められていた。
王族に関わる御家門衆(御連枝衆)と国人(直接、開墾をしてきた)の譜代衆が対立していたのだ。
早雲は、いろいろな情報網から譜代衆側を選択したわけである。

さてさて、例のごとく遼太郎先生の風物、風俗講釈がたくさん散りばめられている。
ときには、「早雲の恋について語るべきところが、横道にそれた」なんてことになる。
だから、小説のストーリーの進み具合が、よく止まるのである。それはまた別の楽しみにもなるのだ。

中の巻は、「念者とは」なんて講釈から始まる。
さらに、日本人の姓と名字、この時代の教養、「器用」という言葉の由来なんて実に面白い。
ついつい読みすぎて、小説のストーリーを忘れてしまう。

さて、そのストーリーも後半大きく変化する。
興国寺城に9年間いた、早雲。
駿府に居座る今川新五郎が不穏な動きをし始める。
やがて、早雲の情報網、茶坊主「茶阿弥」が何者かに殺されて、屍が舘から放り出されたままとなる。
その葬礼から、早雲の舘急襲作戦が始まるのだ。

これで早雲の役割は、終わったかのように見える。
しかし、まだ、下の巻がある。

<読み感記録>
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