今週のおすすめ本 |
ブック名 | アラスカ物語 |
著者 | 新田次郎 |
発行元 | 新潮文庫 | 価格 | 660円 |
チャプタ | @北極光 A北極海 Bブルックス山脈 Cユーコンのほとり D終章 |
キーワード | 原住民、自然、差別、エスキモー、運命、人との出会い、狩猟、麻疹 |
本の帯(またはカバー裏) | アラスカでエスキモーになった日本人がいた。 極北の大地と格闘したフランク安田の生涯 |
気になるワード ・フレーズ | ・恭輔は15歳にして両親を失ったのである。 ・フランク安田は眼を上げて北極光(オーロラ)を見た。空で光彩の爆発が 起っていた。赤と緑がからまり合って渦を巻き、その中心から緑の矢は間断なく明滅をくりかえし ていた。 ・相手が有色人種というだけで、その人のすべてを否定してしようとする偏見が当時の アメリカ人の中に根強くはびこっていた。 ・単なる風評だけでリンチにかけられて殺されたという例は珍しくなかった。 ・客のために自分の妻を提供する。リーダーは親方の妻と寝る。 ・他所者がシーラの神の言葉にそむいたので...他所者がこの地を去るまでは近寄るなと 命じた。 ・500マイルを民族移動 ・フランクは戸籍係、代書屋、銀行屋、商店主、口入れ業、身上相談所長 ・1958年1月には90歳の生涯。日本人モーゼと謳われ、アラスカのサンタクロースと 称された。 ・そのオーロラは薄緑というよりも、むしろ白色に輝く柱状のオーロラで何本かの縦の柱の 間を無数の横棒が複雑に交叉していた。エレメントの1つ1つが明滅しながら動き出すと、 夜空に積木細工の破壊と建設が始まった。 ・1カ月も経たない間に麻疹はポイントバローの住民全体に広がり、麻疹に罹らないものは いなくなった。ポイントバローは麻疹に対して全くの処女地だった。 ・「このシャンダラー湖を横切って、あそこに見える丸い山へ行きましょう。 あの山には、きっと金があるわ」 ・小説を書くにあたって、現地を踏んだことのない私には、なんとしても書き難く、苦心に 苦心を重ねてでっち上げたのが「北極光」であった。 ・東北人らしい「ねばり強さ」ときわめて「謙虚な姿勢」でその生涯をおし通した ・ゆらめき、きらめき、矢が飛ぶ、怪鳥がかける、赤の噴出.... |
かってに感想 | 小説の最初のチャプタは「北極光」である。 北極光とは幻想的な空の饗宴オーロラのこと。 そして、書き出しは、「フランク安田は、それを見まいとした。 眼を氷原の上に落してひたすら歩き続けようと した。だがそうすることはすこぶる危険なことであった。方向を失ったときは死であり、 彼の死は同時にベアー号の死でもあった」で始まる。 主人公フランク安田が氷の中に封じ込められた米国沿岸警備船ベアー号を救うため、 アラスカの地、ポイントバローへ向けて食糧救援を求め、ひたすら歩き、 氷原で死の淵をさ迷ってる場面なのだ。 新しい作家の本は、その文体に慣れるまで、少し力が要る。 その文章表現が自分に合うと、また同じ作家の本を読みたくなるのだが...。 最初から自然との大格闘、なんと気の重いは話だろうか。 と思いながら、なぜ日本人がアラスカにいるのか? その日本人が400ページもの小説の主人公になったのか。 読み進めるうちに、主人公の数奇な運命は 劇的なアメリカに住む日本人二人との出会い、ジョージ大島、ジェームスミナノ。 さらに人種差別をしない二人の白人との出会い、貿易商チャールズ・ブロワー、 鉱山師トム・カーター。 そして、エスキモーは客人に妻を提供するという風習を嫌う妻ネブロとの運命的出会いにより 演出されているのである。 第一のチャプタは、フランクがベアー号への食糧救援を求めに ポイントバローまでの道のりと自然との闘い、死の淵での回想、千代との恋。 救援を見事に成功させ、乗組員を救うのだ。 そして、貿易商チャールズ・ブロワーとの出会いから新しい生活が始まる。 ただ、なぜアメリカに彼がやってきたかは謎のままである。 気が重い自然との闘いから抜け出し、新しいストーリーの展開となる 第二のチャプタは、ベアー号を追われ、貿易商チャールズ・ブロワーのアドバイスで エスキモーの交易所作りを目指すフランク。 その前にブロワーのすすめにより、極寒の地でエスキモーとの共同生活を 始める恭輔。 やがて、先天的な狩猟技術の素晴らしさからエスキモーのリーダー的存在として、ジャパンという 種族のエスキモーと評されるようになる。 ところが、翌年の鯨の不漁から その原因は、彼が来たせいだとエスキモーを追われるのである。 このチャプタでは、運命的な妻ネブロとの出会いと結婚。 この当たりになると、どんどん面白くなり、 次への展開が待ち遠しくなる。 第三のチャプタは、鉱山師トム・カーターと二人の日本人との出会い、 鯨の不漁からエスキモーの飢餓を救う道を求めて新天地へ、 しかし、そこでは、麻疹が流行し多くのエスキモーが死んでいく。 第四のチャプタは、金鉱を探し続け、その願いが叶えられるのだ。 そして、この資金を基にエスキモー村、ビーバー村の計画を実行していく。 やがて、インディアンとの和睦とエスキモーの大移動。 終章は、ビーバー村の発展とふってわいた第二次世界大戦で、強制収容所へ。 帰還そして、平和な元の生活にもどり、やがて一生を終える。 読み終えて、自然の偉大さとそれに逆らわず生きてきた、 フランク安田もエスキモーもお互いに用意されていた運命的な出会いだったと 思わざるを得ないのだ。 こんな偉業を達成したにもかかわらず、誠に静かで謙虚なフランク安田に昔の 日本人の素晴らしさをみさせてもらった。 巻末にある「アラスカ取材旅行」に書かれているこぼれ話、オーロラ、フランク安田の親戚の 人との出会い、小説には描かれない面白さがある。 ただ、筆者が言うように、「数十の十字架が立ち並んでいる一番奥にフランク安田と妻ネビロの 墓が仲良く並んでいた。....何年間も墓参に訪れた形跡はなかった。楚々としたこの手向けの花が 二人にはふさわしいのかもしれないけれど、私にはなにかやりどころのない、不満と悲しみに 閉ざされた」というところは、墓を大切に思う日本人だからだろうか、 ほんとうに歳月とは無常と言わざるをえないのである。 余談だが、小説の中に沢山出てくる、北極圏の動植物と自然・季節の移り変わりの表現は、 多くの登山小説描いている筆者ならではのものであり、できはしないのだが、 読みながらアラスカの自然を見たくなってしまってくる。 特にいろいろなオーロラの見事な表現の一部を「気になるフレーズ」に載せて残しておくことにしたのだ。 終わりに、なぜ主人公はアメリカへ渡ったのか? それは、「アラスカ取材旅行」の中で出会った、姪の口から語られる。 「兄弟の中で彼一人だけが、突然孤独な境遇に置かれるようになったからである。 それにもう1つ恭輔の気性の激しさもあった」とは言え、人種差別の激しい アメリカにわざわざという部分が納得できない。 夢を求めた地叶えられる地が たまたまアメリカであった、それはまさにいろいろな人と運命的な出会い と彼の人生に大きな課題を与え、知らぬ間に彼をその道へと導いて行ったとしか思えないのだ。 まさにこの時代にこの地を訪れるべくしてすべて用意されていた人生としか思えないのである。 |
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