今週のおすすめ本


ブック名 箱根坂(下)

著者 司馬遼太郎
発行元 講談社文庫 価格 680円
チャプタ
@伊豆の山
A修善寺の湯
B出帆
C襲撃
D三浦半島
E出陣
F秋の涯
G高見原
H三島明神
I箱根別当
J坂を越ゆ
K早雲庵

キーワード 戦国、天地人、時機を待つ、政治、民の声、人材育成
本の帯(またはカバー裏)
関東制覇をめざして、まず伊豆を切り取った早雲は、 越えがたい箱根の坂を越えて、ついに小田原攻略に成功した。 まさにこの時、戦国の幕が切って落されたのである。

気になるワード
・フレーズ

・人が死ぬ。世にいう無常などということばの空しさなまぬるさ、死という言葉にはるかに およばぬ、と早雲は思うようになっている。
・「茶々丸殿を討ち奉る」・・・足利家の威権が地に堕ちる日であったといってよく、 日本国に戦国の世がはじまった日であると言ってもよかった。
・伊豆の民は、早雲の施政をみて、この人の世、永久なれかしとねがったと言われる。

・早雲はあせらなかった。「時」と、自分に言いきかせた。時という、人の智恵や力ではどう 仕様もないものがある。それを待つのだ、ただ無為には待っていない。
・年少のころから、早雲はおとなしい男といわれてきたし、みずからを律し、埒を越えることは やったことがなく、さらには人にもやさしかった。貧民や飢民に対する思いやりのあつさは うまれついたものであったし、また貴人の暴慢さに対する憤りも、本来のものであった。
・早雲は、あきらかに伊豆時代の頼朝にあやかろうとしていた。という以上に、挙兵前の 頼朝のごとく三島明神に参籠することによって、自分の挙兵を「妄行妄作」の悪事でなく、 正義の色合いだけでも付加したいと思った。

・「あわれ、この人を相模のぬしにせばや」という思いが、たれの胸にも満ちはじめていた。 早雲というのは人の主というより、人の師匠くさい男であったが、行方も知らぬ乱世のなかで、 頼るべき男といえば早雲以外にないものではないかと思うようになった。
・ぼろぼろに朽ちたる世とは、農民に対して超然としてきた守護・地頭制のことであった。 農民自身実力をもち、その階層から国人・地侍を出す世になっているのに、大森氏も、 三浦氏も、気づくことなくその上に立ち、虚位を実質ある支配権だと思っている。

かってに感想
さてさて下巻の始まりでありまする。
早雲60才から88才まで、この時代の人とすれば実に長生きである。
ここからが、「戦国大名」として、彼の名を後世に残した物語の始まりなのだ。

早雲自身、こんなに長生きすると思っていたのだろうか。
守護今川氏親からいただいた、興国寺城から関東制覇をめざして、伊豆、小田原、相模へと、 20年以上の歳月を待って、領国を拡大していったのである。
おのれの命の先があたかも見えるかのように。

室町幕府は、「何の政治もしない」と早雲は思っていたのだ。
各地の守護・地頭にまかせ、将軍は文化活動にいそしんでいたわけである。
土地を開墾、農業をする国人・地侍が地力を発揮し始め、室町幕府体制は崩れようとしていた。

先見の明を持つ、早雲は、それをいち早く察知して、農民側に立った政治を広めていったのである。
と言って決して、急がなかった、まずはとるべき土地の情報を集め、城に仕える国人・地侍たちを 手なずけ、綿密な計画、そして攻撃開始は「天地人を見て決めるのだ」、つまり現地を自分の目で 見て、土地の人の情を見、天候を見るのだ。
早雲が素晴らしいのは、四公五民という税の安さと、農民への撫育のあつさ、そして 自分の生活は実に質素であったということだ。

領国制という新思想を入れ、奪いとった土地に対して直ちに検地をしたのである。
早雲の器量を見る時、自分の立場を、「一介の旅人である」としながら、 相手の懐に入っていく時は、いつも供は一人であるというそんな所からもうかがえる。
この当たりは、江戸末期から明治に活躍した「勝海舟」も似ている。

今の時代で言うならば、国民の声に耳を傾けながら、新しい時代のうねりの中で、上に 立つものは何をすべきか。
上に立つものの生活はどうあるべきなのか。
その当たりを十分に心得た本当の政治家だったと言えるのではなかろうか。

いつもながら、この下巻にも当時の言葉の意味合いを解説してくれる部分が多く出てくる。
まずは、「厳(イヅ、イツ)」・・・イツとは神秘的で激しい力がある、に始まり、 「金と貨幣」「光と塵」「見る、見られる、見入られる」等へと続く。
いつもながら、言葉の意味合いに興味がある読者には、たまらない一冊なのだ。

<読み感記録>
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