今週のおすすめ本


ブック名 おじいさんの台所
(副題)父・83才からのひとり暮らし特訓
著者 佐橋慶女
発行元 文春文庫 価格 499円
チャプタ
@父はどこへいく
A鬼軍曹の特訓
B遠くの娘より近くの他人
C難行苦行の家事・雑事
D父の四季
E再び独立宣言

キーワード 自立、家事、人とのやりとり、趣味、孤独、日記帳、自然、、旬、おかず
本の帯
明治生まれの年老いた83歳の人。母の死から断固として一人暮らしを決意した。 炊事洗濯まるでダメな男に”鬼軍曹”と化した娘(著者)が、自立させるための特訓また特訓。

気になるワード
・フレーズ

・父は名だたる亭主関白。戦前は先祖伝来の田畑から上がる年貢で生活していた。 ....父は80余年間、働いたことも勤めたこともないのだ。
・兄弟は他人のはじまりという、私は父よりももっと孤独であり、老後は みじめであろう、と父の姿を自分の中においてみた。
・「お父さんより一日でも、それが無理なら十分でもあとまで生きていたい。 お父さん一人ではあまりにもかわいそうで、すまない気持でいっぱい。きちんとお父さんをお見送りして 死にたい」

・仕事には区切りがあり、節目がある。やった!という手応えと充足感がある。 それに比べて家事は、なんとやりがいのない、評価も結果もない、頼りない ものであろうか。雑事の連続であり、次から次へと続けていく忍耐が必要である。
・娘たちが帰ったあと、父は急に一人ぼっちの淋しさを味わい、涙にくれて いるようだ。日記の最後にこのことがポツリと書いてあった。
・「顔見れば 黙って豆腐を 包みけり」

・どうやら、いままで自分のやってきた仕事、役割のものには、自分で ちゃんとお金を出し、自分の好きなように自分で決定して、納得し満足している らしい。趣味の盆栽に必要な道具、消毒剤類、肥料には自分のお金を使っている。
・どうやら、父の考えている男のやる仕事とは、結果がなんらかの形ででてくる もの、手応えがあるものと私なりに解釈・理解することができた。父にとっては 形にならない掃除や、成果のでないトイレや風呂場の手入れはやりがいがなく て不得手なのだ。
・一日の三大仕事、それは朝、昼、晩の食事づくりである。ご飯を炊くことは、 いかに行平で炊こうと大した苦労ではないが、三度三度のおかずを考える ことが苦痛であり、ひと仕事なのである。

・盆栽作りにしても、観察してくれる相手があり、褒めてくれる人がそこに いて、それが生きがい、やりがいとなっていることが、父の生活をみていて よく理解できる。
・よく”趣味がなければ...”とか”スポーツをしなさい”とか短絡的に 結論づけるが、実はそこまでの過程のやりとりが大切であり、一人では 生きがい張りあいにならないと思う。聞き手、褒め手がいてこそである。
・独居生活に抑揚をつけ、彩りをもたらすには、人や自然との交わりが 重要である。四季毎の木々、花々、人々との交わりが父の生活にアクセント をつけている。

・男やもめにうじがわくといわれるが、父の一人ぼっちの生活には前川さん や近所の人々の交流のおかげで、幸いうじがわかない。それどころか、 男やもめに話の花が咲きこぼれている。
・母の存命中は、食べ物の旬にも季節の移り変わりにも関心がなかった。 そんな父を”男って季節に鈍感ね、とくに旬の物にに感情が動かないのだから、 いやになる”と母はこぼし...。
・季節の変化のひとつひとつをそれは大切にしており、催事にうとかった父が、 催事にもことのほか関心を寄せ、それを心暖かく扱っている。
・ひとり暮しの人にとって、世間一般の行事はややもすると疎ましく、 置きざりにされるような錯覚に陥り、暗い気持になりやすいという。 父は逆で、バザールに参加して自ら存在価値を味わったとともに、社会に 積極的に自分から出ていこうと努力するようになった。

かってに感想
筆者の作品は、中高年における知識・知恵、趣味、友人・仲間、健康、お金の五つを取り上げた 「四十代から楽しむ五つの貯え」、読者から一般公募した遺言エッセイをまとめた「最期は 思いのままに」を読んだ。
筆者、日本で初めて女性だけの会社「アイデアバンク」設立し、 中高年に対していろいろと情報を発信している。
今回のこの本は1984年に発行されたもので、主役のおじいさんはすでに亡くなられているようだ。

この題名で本が出ていることは、相当前から知っていた。
だが、おじいさんという言葉ににためらいがあったのだ。
いまなぜ読むのか、それは「台所」という言葉に目が引かれたからである。
いまも単身赴任生活をしてそれなりに適当に食事を取っている。
でもそれは仕事があるから、適当に済ませているが、じゃあ定年後はどうするのかと 考えた時、全くのお寒い話であることに気づいたのだ。

読みながら、これは父と娘との闘いのドラマである。
また、男はとかく妻より自分が先に死ぬと思っているフシがある。 その男どもに、妻が先に死んで自分が生き残ったらどうするのかという問題を投げかけている。
そして、生きるためには、一日三食という食事は絶対に欠かせないことなのだ。

その食事で特に問題になるのは、おかずをどうするかなのだ。
さらに、その他の家事・雑事についても、男たちは妻にほとんど任せきりだろう。
その時の男たちの苦労を考えると、筆者は自分自身の親を叱咤激励しながら、 自立を促しているのだ。
親と子の壮絶な闘いのドラマ、やがて、娘は父から”鬼軍曹”と呼ばれるまで になりながらも、さらに叱咤激励は続くのだ。確かに読みながら、80歳を超えた老人にここまで やらなくてもと思うのだが、殴り合いの喧嘩をしながらも続くのだ。

主人公のように、うるさく言ってくれる娘たちが居てくれればまだなんとかなるかもしれないが。
少子化時代、子供に頼ることもできない時代、まだまだ家事労働は、女の物と思っている 男たちへの警告の書でもある。
妻に先立たれ、楽しく力強く生きるための多くのヒントが、この本の中にはある。

私と同世代の五十代の男たちには是非読んでもらいたい、作品である。
私がもらったヒントを書き出してみよう。
まず、一つ目は、近所・町内会の行事にはできるだけ早い機会に、妻にまかせっきりでなく、 自分から出てゆき、近所の奥さんに顔を売っておくこと。

二つ目は、趣味を楽しむのはよいが、相手があり、褒めてくれる人を見つけておくこと。
三つ目に、独居生活に抑揚をつけ、彩りをもたらすには、人や自然との交わりを大切にすること。
そして、日々を新たにするために日記帳をつけるということ。
自然との交わりなんて、最近は食べ物にしても旬の物が分からなくなっている。
だから、ただ妻から出された物をなんとなく食べるのではなく、意識して食べることのようだ。

<読み感記録>
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