今週のおすすめ本


ブック名 心に残る患者の話
著者 石川恭三
発行元 集英社文庫 価格 519円
チャプタ

夜明けの内科病棟
笑顔の源
故郷は老いの宿り木
あの医者さえいなかったら
火事
突然死
姉の死
満月の夜
噂話
パニック・ディスオーダー(恐慌性障害)
強運
おい、久美子、がんばってくれよ!
仕返し
埋もれた欲望
縁結び
私のテレビ初出演
ホクロ
奇跡
輪廻転生

キーワード こころ、コミュニケーション、死への心構え、死のタイミング、相手の立場、運、積極的傾聴
本の帯
医者になって以来、多くの患者たちと出会い、そして別れてきた著者の生と死への思いの数々
気になるワード
・フレーズ

この本はフレーズというより、ストーリー自体が気になるものばかり。

・宗教書も何冊か読みましたが、あまりにも抽象的すぎて、現実感がなくそこからは救いのかけらすら も得られませんでした。先生が言われた”死ぬということは、私たちが恐れているほどには 難しいものではないように思う”の一言が今の私には最大の救いになっています。
・私は今までに数えきれないほどの人の死に立ち会ってきたが、死の直前までもがき苦しんだという 人は皆無に等しいと言っていい。たいていの場合、死を迎える頃になると、意識は薄れそれまでの 苦痛の一切から解き放たれたような表情になってくる。

・医者が患者さんに対してできることといえば、せいぜい”時に癒し、しばしば支え、常に慰む” ことぐらいである。
・こうなるだろうとは予想していたが、体の力が抜けていくような虚脱感に見舞われた。 このままではとうてい眠れそうになかったので、軽い睡眠薬を飲んで床に入った。

・先生、悔いのない人生なんて決してありえないんです。でも悔いを少なくすることはできるんです。 先生には、まだかなりの時間が残されているんですから、見栄とか世間体などで制約されない自分 の生き方を真剣に考え、それを実行していくことです。
・私は、今すべてが虚しく哀しく感じられるのですが、その中にもうどうでもいいや、 という気持ちもあるんです。それがひとつの救いになっています。

かってに感想
お医者さんの書いたエッセイ。筆者の作品は2冊目である。
テーマに「心」という文字を見つけて買った。いつものようにエッセイだから、どれから読んでもいい。
ハッピイエンドで終わる話もあれば、その後どうなったのか気になる話、泣かせる話、 どういった死を迎えたのかという話。

病は突然に人を襲う、そうかと思えば生まれた時から、死ぬ病を抱えている人もいる。
どれがどうだからというものでもない、ひとそれぞれの生き方、病のとらえ方、死に方なのである。
筆者のこの本を読んで思うこと、インターン時代、 どの方面の医者になるかというこぼれ話は実に面白いが、どのシーンにも出てくる 筆者の立場が実に明快なのである。

それは、常に患者の立場に立って、積極的傾聴に心がけていることである。
それも相手の言いたいことを「引き出し」、それに耳を傾けるのである。
最近は、特にコミュニケーションが成り立たない世の中とよく言われる。

その裏側にあるものは、相手に興味を持つということではなく、自分を知って欲しいとか、 自分のことをしゃべりたいというのが先に来るのだろう。
自ら相手に興味を持って、聞き役に回れば、知らぬ間に対話が成立し、温かい情景が生まれてくるのだ。
これは、死なぬような治療、延命治療を目標に進めてきた医療が大きな曲がり角にある中、 患者の立場に立った治療はどうすべきなのかという、結論がこの本の中にはあるように思える。

最近、「医療過誤」という問題が、毎日、ニュースにならないことはない。
そこにいつも不足しているものは「こころのない医者」の治療に他ならないように思うのだが、いかがだろう。
全部で19のエッセイがある。

特に気になったのは「埋もれた欲望」である。
話し手は、通産省を定年退職後、某大手商社に役員として再就職後、 すでに第一線から勇退、三年前妻に先立たれ、がんの告知を受けていた。
「私はもう間もなくこの世から消えていきますが、 その前にこれまで誰にも話すつもりがなかったことを、無性に誰かに話したく なってしまったんです」と言いながら話し始める。

「ガンの宣告を受けて、いままで真面目一方 の堅物だった、自分の命の使い方を真剣に考えた。世間体などどうでもいいから、 これからは好き勝手なことをしてみようと思ったんです」
そんな彼の行くつくところは、 ソープランドであり、デートクラブであり、同性とのセックスだったのだ。

死という言葉を聞いた時、自分ならどうするだろうか、そんなことを考えさせられたエッセイである。

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