今週のおすすめ本


ブック名 勝海舟(5)
(副題)江戸開城
著者 子母沢寛
発行元 新潮文庫 価格 700円
チャプタ
@河童
A衣更着
B野焼
C壷の中
D丁字花
E1つの灯
F大用現前
G雑然騒然
H絶言語
I天下掌中
J面やつれ
K目と目
L一朶の雲
M天道不違
N諸天及人
O地中の人
P清濁
Q別れ道
R任天知
S一嘆の声
21.この一つ
22.野の人く
23.いっぽうの悔
24.卯月
25.陽光
26.無辜大災
27.散る花咲く花

キーワード 敗戦処理、恭順、器量、激動期の人材、天命
本の帯
その禄わずか四十俵の子倅から、今や陸軍総裁となった勝。 しかし、朝廷に対する慶喜の恭順の意は通ぜず、薩長倒幕軍の東征はとどまるところを知らない。
気になるワード
・フレーズ

・恭順、謹慎それだけで、われわれ日本国の武士としての意趣は立派に立っている。 徳川一家の事に到っては、只々、朝廷の御仁慈におすがりするだけさ。
・まあ長生きして下さい。苦しみの後に生まれ出て来る子供の面あ見ずに死んではつまらない。
・「ひとえに天裁を仰いで、従来の落度を謝す」「若、聞かずして、軽挙為さむ者は、我が 臣にあらず」

・人間は喧嘩を売りたがっている奴の眼を決してこっちで見るもんじゃねえよ。 そういう奴を瞳と瞳が合うと、必ずいきり立って来るもんだ。なんでもなく済むものが、 ただ眼を見たばっかりに飛んだことになる。だから、そっぽを向いているに限るものだ、 人のうしろからと、眼のない奴とは並々の腕じゃ斬れないもんだ、それと同じだ。
・しかし、高橋さん、世の中変わっている。時勢の変わりというは妙なもので、 人物の値打ちが、がらりと違って来やすねえ。
・命を投げ出して、おいらの片棒を担ぎに来てくれたよ。世の中なんてものあわからねえねえ。 うめえ時にうめえ人が来てくれたものだ。

・こういう大変革は、大勢の惜しい人を死なせたり、殺したりする、口惜しいが、これもどうにも 仕方がねえ。
・夫人、勝さんは非常に苦しんでいる。徳川家を思い、日本国を思い、そして先進異国の 存在を眼の前にはっきり見極めて、そこに正しい道を歩もうとしているのです。
・自分が死にさえすればいいというそんな安易な物の考え方では、国難という大きな問題は 救えないものではないか。

・あたしゃいつも身辺のものへそういうんですが、人の命というものあ自分でどうにもならぬものだ、 云わば天の命ずるままだ。だからこそ、天がこの勝の命の入用の間は決して死なせないそれが 若し不用となればどんなに護って見たところで、忽ちにして失われるものだと。

かってに感想
第五巻の時代背景は、江戸城無血開城前後、脆くも崩れさった慶喜幕藩体制。 ひたすら恭順・謹慎の姿勢を貫く慶喜だが、朝廷へその意思がなかなか伝わらないのだ。
舞台は、江戸。

ストーリーは、陸軍総裁を命じられ、元氷川に帰ってきた麟太郎。
夫人とその話を終えて、久しぶりに母と会話する。
母から「今、何御役を勤めておりますか」と問われ、「陸軍総裁」と答える麟太郎。 さらに、「御役高は?」と問われ、「七千石です」 その答えに、驚きの余りうつ伏したまま大きな声で泣く母。
そんなシーンから始まる。

小説を読むこと、ほんの1か月たらずで、四十俵から七千石だから、その苦労をはかることはできない。
麟太郎の頭の中には、常に海軍畑から日本国を考え、諸外国という列強の意識を忘れずに、 さらに、身辺警護もおかず、元氷川の屋敷を訪れる人は拒まないことでやってきた。
生活も実に質素を旨としてやってきた主人公だから、読み人もこの人が本当に偉くなった のか、さっぱりわからない。

言葉使いも江戸弁から変わらず、だれかれ身分に関係なく、気さくに話すから余計に分からないのだ。
その気さくさは、この巻を読んでも変わらない。
咸臨丸での帰路で立寄ったハワイでのワンシーン、「アメリカ人が土着民を奴隷として使用 している光景に胸が詰ってならなかった」麟太郎の心の中には、こういった人は皆平等という思想を 貫き通しているからだろう。

この巻での主な登場人物は、西郷吉之助であり、高橋泥舟であり、益満休之助であり、 山岡鉄太郎であり、イギリス公使パークスであり、そして、江戸の火消し始め、長年に渡って作り上げられた元氷川の人たちの麟太郎ネットワークなのだ。
江戸無血開城に向けた麟太郎のシナリオが、麟太郎のプロデュースにより着々と進められ、無事終わりを迎える。
麟太郎のだれかれ身分に関係なく築いてきた人のネットワークが、見事に江戸の町、日本を 救ったのである。

圧巻は、麟太郎が慶喜恭順の密書を託す人物鉄太郎との出会いから始まり、 益満による鉄太郎と西郷への引き合わせ、鉄太郎による西郷との駆け引き、麟太郎による江戸町の火付けの準備、 パークスとの駆け引き、そして、西郷との最終交渉と江戸城引き渡しへと続くところ、ほんとに息をつかせぬ面白さがある。

<読み感記録>
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