今週のおすすめ本


ブック名 勝海舟(6)
(副題)明治新政
著者 子母沢寛
発行元 新潮文庫 価格 700円
チャプタ
@児戯
A葱坊主
B不容他欺
C仏心鬼心
D夜霧
E念頭滅却
F運命
G飢餓
H奔流の中に
I東京
J夏花散る
K清風濁風
L秋の風
M命数
N蔦紅葉
O波
P雪見灯篭
Q霜夜
R帰雁
S心胸担易
21.枯野
22.捨ぶねく
23.弦月
24.向柳原
25.夜泣そば
26.高槻村
27.冬ざれて
28.桜もどき
29.雷同

キーワード 四民平等、大変革、移民、起業
本の帯
江戸城引き渡し後も、軍艦引渡しを拒む榎本武揚は、旧海軍を率いて脱走・・・
勝は天子の東下と時をあわせるかのように、今やわすが70万石となった徳川の藩地 駿府へ下っていく。
気になるワード
・フレーズ

・人数が多いたって、屁のようなものだ。要は人材だ。奥羽の天地に一人の人材があるかよ。 あ奴ら、ただ国の大と、人数の大を頼むだけで、聞いてみると戦策は悉く子供だましだ。 おまけに、小是を守るばかりで、とんと別に大是あるを知らねえ。
・元々才人は才はたのんで、赤誠の足りないものだ。自然、才に溺れて人を詐り人をだます。 そんな事は、それ程に重く見ないやね。
・勝のところへ来れば、身分の上下も何もない。天下の目附だろうが、浪人だろうが、さては 町人百姓だろうが、みんな一様の取扱いをする事は知っているから、村上に対しても、 そんな態度をとったのだろう。

・無禄移住、一家族をかかえて祖先以来の江戸を離れ、しかも、身に蓄えなく前途に光明無し。
・どうせ不治の病で、ほったらかして置けばいいのだが、まだまだ煩悩があって、やっぱり 薬を飲んだり、静養したりする。浅ましいとは思うが、どうにもこの境涯をぬけきれないので困る。
・なあに死にたくもない時は、死なぬようにするのがいいよ。死にたくもないのに、 にやにや笑って死ねるようになりてえなんぞ痩せ我慢をするのは馬鹿の骨頂だよ。

・移住の困り方もすでに言語に絶している。只衣食に困るというよりは、恐ろしいのは気持の 荒み方である。
・武家ってものあ、これまで長え間、権柄ずくで、なんでも、おのの思うようになるものと 思って来ている。それが三度の飯せえ思うようにならなくなる。これではじめて、目がさめてみんな 振出しからやり直しでんしょう。いい事だ。
・なあに、教えるたあいうものの本当に教えというものは教わろうてえ奴が持っているその胸の中 の芽へ水をかけてやる。それだけでいいんだよ。
・死ぬ死ぬという奴に、ほんに死ぬ奴あねえもんだよ。あ奴らだって、少し落着けあ、死ぬのが いやになる。それが人情、そしてまたそれがいいのよ。

かってに感想
第六巻・最終巻の時代背景は、明治新政府体制への移行がはじまったころである。
やっと慶喜の処置が、駿府70万石と決り、転封のための大移動。
舞台は、江戸、駿府。

ストーリーは、恭順の敗軍の処理を終えた麟太郎に、護衛の役割を担う ため勝邸を訪れた若侍二人と益満休之助のやりとりから始まる。
やっと恭順の姿勢を朝廷に示すことができた幕府。
そんな折り、麟太郎のところに、「榎本海軍副総裁が旧海軍7隻を率いて、 不穏な動きを始めている」という情報が入ってくる。

江戸幕府に奉公していればそれなりに食べられた時代から、大リストラに加え、 駿府への転封という。武士という特権階級から、明日をどうやって食べていくか。
麟太郎に関わる人たちそれぞれが、それぞれに悩み、やがて新しい道を見つけて 生きていく姿や大きな渦に呑み込まれてあえなく死んでいく姿を描いていく。

いくつか紹介しよう。
西郷と共に生きようとした益満は、上野の彰義隊との戦いに鉄砲に当たり討死。
麟太郎と咸臨丸に同乗して、アメリカに渡った伴鉄太郎は、麟太郎に「次郎長の世話になれ」 と言われるが、踏ん切りがつかず、 やがて、徳川の新しい地、沼津での「陸軍兵学校」の「一等教授」として出向いて行く。
榎本副総裁は、江戸を出帆して、やがて蝦夷地に赴き、占領してたてこもる。
村上俊五郎は、麟太郎の推挙により、駿府の市中取り締まりとして、やがて、 佐久間象山の妻だった妹となさぬ仲へと。

そして、徳川封建時代からの仲間とのしがらみに苦しむ吉岡艮太夫。
彼の話がこの巻では、一番出てくるのだ。結局体制側にいた人間は、麟太郎のように、 乞食でも百姓にでも、なんでもいいわという切り替えができないのである。
これは、現代におけるサラリーマンたちが、長年勤めてきた企業にリストラされ、 すぐに新しい仕事を見つけよと言われても、できない。特に管理職はむつかしいのと同じなのだ。

この黒船渡来から始まり、咸臨丸渡米、長州征伐、大政奉還、江戸開城そして、明治新政まで、 怒涛のごとく押し寄せる大きな波を受けながら、この間を生き抜いた人たちは、 「人間死ぬまで分からぬ」という言葉をしみじみと、かみしみていたのではなかろうか。
このことは、21世紀に入ってもいまだに改革がもたついている現代日本、リーダー 不足の日本政府に勝海舟のような人材の登場を期待するのは私だけではないだろう。

<読み感記録>
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