今週のおすすめ本


ブック名 勝海舟(4)
(副題)大政奉還
著者 子母沢寛
発行元 新潮文庫 価格 660円
チャプタ
@時雨月
A冬来りて
B初霜
C海律全書
D蛙の子
E雪
F闇
G風立つ
H遠鳴
I波
J万里
K半年紅
L桐秋
M暁
N一塵一劫
O転又変
Pこがらし
Q非心力所及
R紛々擾々
S花尊者
21.梅
22.鳶輪を描く
23.獲物
24.胆力っ玉
25.或説己身

キーワード ネットワーク、日本国、ビジョン、敗戦処理、大政奉還、世の流れ
本の帯
幕府と雄藩の対立はいよいよ深まり、もはや公武合体の機運は失われた。 折りしも土佐藩より、大政奉還の建白がなされる。世情は混乱をきわめ、巷には「ええじゃないか」 が流行。幕府に世の流れをおしとどめる力はなかった。
気になるワード
・フレーズ

・土方さん、世の中の事は時々刻々変遷極まりねえものでね、機来たり、機去るその間、実に髪を 容れない。こういう世に処して、万事理屈を以ってこれに応じようとしても、それはとても及ば ねえものです。世の中は生きている。理屈は死んでいる。この間の消息を看破するだけの眼議と、 気合を利する胆気が無くて、他人の行動などは論ずべきでねえでしょう。
・大海軍の発展の第一歩がここに英吉利流の採用によって、とにかく踏み切れるということは、 実に日本国将来の為に万々歳である。
・あたしをして云わしむれば、仏蘭西とか、英吉利とか、一国一海軍によらず、各国伝習士官 を得て、われわれがその長短を見るという方がいい。

・お前も近頃あ、だいぶ毛唐人と親密にしているてえが、いいかえ、肚だけは、きっちり定めて 置くんだよ。幕府も薩摩もねえ、日本国という三字を忘れちゃあ大変だ。いいかえ。
・一切の権をこの勝一人に御委任下さるかどうかということでございます。
・お前、今の世の中がわからねえのか。ぶらぶらしながら勉強をしているような呑気な時勢じゃ ねえぜ。うかうかしてれあ、この日本国がぶっ倒れるという危急だ。一日一刻半の勉強たあ、何を 寝ぼけているんだ。顔を洗って出直すがいいわさ。

・最早、致し方はない。この上は、頼るは、その方只一人である。只一人であるぞ。安房、頼む。
・智えの網、策の網、みんなそんなものを張るからおのが張って、却ってにっちもさっちも行かなく なる。人間はねえ、肚ん中、只赤誠の二字せえあれあ、それだけでいいんだよ。


かってに感想
第四巻の時代背景は、大政奉還前後、脆くも崩れ行く慶喜幕藩体制、 薩摩・長州等官軍が錦の旗を持って京から攻めてくる。
舞台は、広島、大阪、京都、江戸。
ストーリーは、長州征伐の後始末後、宮島からの船に乗った麟太郎が風雨の中、やっと無事兵庫の高砂港 の浅瀬に乗り上げ、水主、船頭たちを慰労しているところから始まる。

勅書を請けた慶喜公から後始末を下命され、宮島での交渉の顛末を報告すべく大阪城に赴くが、 結果を妬むか気に入らない、重役連はその報告を聞こうとしないのだ。
ただ聞いてもその後をだれがどうするのか、堕落していく組織には、そういった人材がいないのである。
麟太郎は、軍艦奉行辞職願いを認め、その場を去ったのである。

この巻には、麟太郎の回りに、また新しい、人のネットワークが生まれてくる。
それは、新選組の土方であり、清水の次郎長であり、薩摩藩の益満休之助であり、 新徴組山口三郎である。
その一方で、別れや自分より若く優秀な人材の死を惜しみながら嘆く麟太郎の姿もある。

それは、竜馬の死であり、わが子次男四郎13歳の病死、そして、長男小鹿のアメリカ出帆である。
人一人の人生とはいえ、麟太郎ほど開けっぴろげで、来るものは拒まず、開国、公武、薩摩、土佐等々 思想の違う者たちをおおらかに包み込む度量は、東に麟太郎、西に西郷ありと言われた時代だったのだ。
世間の評価とは裏腹に相変わらず、幕藩体制での軍艦奉行麟太郎は、蚊帳の外であり、 気まずくなった問題や敗戦処理ばかりにお呼びがかかるのだった。

それは、薩摩屋敷の奇襲の後処理であり、海軍伝習でのイギリスとオランダでの事務行き違い処理であり、 やがて、大政奉還後、鳥羽伏見の戦いに敗れ、大阪城から逃げ帰った慶喜公から陸軍総裁として、 その後処理を任せられる麟太郎の最大の役目へと移っていくのだ。
「時代は人を作る」というが、大きなうねりが起ころうとしている時代に 生まれるべくして生まれてきた人物であることは容易に知れるのだ。
ただ、いつも主人公麟太郎の頭にあったのは、赤誠という言葉と日本国ためにという三文字だったのだ。

はや4巻まで読んでしまった。
読みながら、ついついその時代に頭がすっぽりと入ってしまう。
ストーリーの展開が面白いといつもこうなってしまう。

この小説での主人公は、しゃきしゃきの江戸っ子麟太郎である。
その使う小気味よい江戸弁に親しんでしまい、つい日常の口調がそれを真似ている自分がいるのだ。
昔、東京へ修学旅行に言った後、東京弁にかぶれていた自分を思い出していた。 でも、なぜこんな気持のいい言葉をなくしてしまったのだろうか、もったいない話しである。 つい根強く残る大阪弁(関西弁)を思い出しながら。

<読み感記録>
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