今週のおすすめ本


ブック名 勝海舟(3)
(副題)長州征伐
著者 子母沢寛
発行元 新潮文庫 価格 740円
チャプタ
@霧深し
A憂来共誰語
B初ぶり
C甲子春
D落椿
E淀川夜船
F夕焼
G焔
H秋の水
I江戸音信
J巨木
K曇り目
L栄辱不関
M独り眠らず
N睨む目
O顔
P群雀
Q遅れ咲
R道芝
S冬雨
21.寅年
22.雲の峯
23.漠々濛々
24.憂深き者
25.男の道
26.空蝉衣
27.秋色
28.不如帰
29.雁来紅
キーワード リストラ、組織衰退の兆し、小田原評定、大組織の脆さ、赤誠
本の帯
激突の中の元治元年、蛤御門の変は幕府に尊攘派の中心長州藩を征伐する口実を与えた。
気になるワード
・フレーズ

・麟太郎のむかむかするのも尤もである。幕府の遣り口は日一日と因循姑息で、にっちもさっちも 行かなくなると、閣老も、若年寄も、奉行も、病気といって引きこもってしまう。 その度に、外に対しても内に対しても、信義を失って行くだけだ。
・本当に根限り命がけの大仕事をした者あ、そんなに長生き出来るものか、おいらなんざあ 狡い奴だから、多分百位まで生きるだろう。だが、その代り、ひょっとしたら、殺されるかも 知れねえな、おいら、竜馬、みんな危ねえ仲間だよ。
・閣老方は、誰一人として、自ら難きにおもむこうという人はない。ただ易きについて その一日の安逸を希う結果は、いざ事が面倒となれば、いろいろな口実を拵えては、 逃げよう逃げようとする。

・水の流れるような感じとはこういう事を云うのであろう。西郷も、麟太郎も、そこに初対面という 少しのこだわりもなく、互いの胸の中に、その互いが己の胸一つにひそめて、対手にかくそう とするところもないような明け放しの、すがすがしいものが通じ合った。
・敗けても逃げても恥と思わねえで、嘘をついたり法螺を吹いたりするようになっちゃあ、 もうその国もいけねえものだよ。
・その馬鹿の幅がどれ程、大きいか分からない。小さく叩けば小さく鳴り、大きく叩けば 大きく鳴る。

・お前は、いつも渦の中にいる人間だ、焔の中にいる人間だ、それでこそお前の値打ちが 出る。竜馬・・・。
・こう度々の御役替えでは、落着いて何をするということも出来ません。 少し馴れたと思うとすぐ何か仰せつけられる。ほとほと弱ります。
・今、あたしが鯱鉾立ちを見せたところで、天下はどうにもなるもんじゃねえんだよ。 天の運、時の勢い、国家の瓦解を日を卜して察するのみよ。


かってに感想
第三巻の時代背景は、蛤御門の変後、ますます右往左往している頃の幕藩政治体制である。
舞台は、江戸、大阪、広島。
ストーリーは、生麦事件の後処理に不満を隠さない麟太郎の日常から始まる。

将軍家茂の許しを得て、大阪に海軍塾の建設を始める麟太郎だが、開国派と見られてしまう 彼にとって情勢は悪化の一途であった。
やがて、各藩を飛び出した連中を門人として育成する麟太郎は、御役御免の沙汰を受ける。

いまでいうリストラなのだ。
その後、一年半閑職の麟太郎、その間新しい二つの出会いがある。
それは、西郷との出会いであり、江戸町火消頭新門の辰五郎との出会いである。

こういった出会いは、裏表の無い、来る者を拒まない麟太郎の長年の人のネットワーク 作りから、もたらされたものである事に間違いない。
歴史はいつも、シナリオ通りに人を結び付けるものだとつくづく思う。
この結びつきは、次に起こる出来事の出会いであることは、歴史を後で経験する 人間が知りうる事であり、当事者にはわからないものなのだ。
それにしても勝という人物は、敗軍の後始末、一番辛い仕事ばかりをやらされているように思う。

まずは、「長州出兵拒絶の書付交渉」そして、 第三巻の圧巻は、やはり御軍艦奉行に復職した後、将軍家茂の後見役慶喜公の命(朝廷)を 受けて、幕府と長州との和解交渉に一人で向う麟太郎の姿とその交渉である。

腹蔵なく、日本国のためにと長州と広島の宮島で交渉を進める麟太郎は、 実にざっくばらんで一点の曇りもないのだ。
「幕府は兵を引く、長州はこれを追わない」という事で、交渉も無事に終わる。
その足ですぐに報告のため、船で大坂へと向かうのだが・・・。

この巻にも、麟太郎の身分に関係なく、ざっくばらんな暖かみのある人との付き合いが、 大きな歴史のうねりとは別に、親しみのある身近な麟太郎の人物像として、浮き上がってくるのだ。

それは、船上で助けた母娘であり、宮島の旅篭での小娘であり、宮島からの帰り船での船頭たちである。
とかく偉くなると高慢になるのだが、そういった態度は麟太郎には全くない、年相応以上に 気難しくはなっているようには見えるが・・・。

加えて、次のような話、小さい頃に睾丸を犬にかまれて以来、 犬から逃げるところや、一杯の酒ですぐ赤くなり飲めないところや、 下手な似顔絵をすぐ描くところが、麟太郎をさらに身近な人物へとさせているように思う。
これは筆者の意図するところなのだろうが。

<読み感記録>
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