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・作品には,20を越える医院・病院と世に言う名医という先生たちが登場してくる。その分野と治療方法は,東洋医学,西洋医学に関係なく,超能力・霊の世界も含め,ありとあらゆるもの,そして名医たちはそのたびに診断を下す。黙ってそれに従う筆者,しかし一向に改善しないというより,より悪くなる「腰痛」に対する筆者の苦闘を生のまま表現している。登場する治療法には鍼,気功,ヒーリング,薬物,電気治療,御祈祷,水泳,遠赤外線とその数にも脅かされるが,最新鋭の電子機器を使用しても肉体的な欠陥は一切見つからないのに,なぜ精神的な要因にたどりつかなかったのか。やはり,いまだにメンタルな面から身体へ影響がでるとはほとんどの人が考えられないのではないか。医師でさえこういった状態だから,病人はなおさらである。せいぜい胃潰瘍程度の理解しかない。 ・治ると思われる物にはすべてチャレンジし,治そうという筆者の執念,怨念はすさまじい。冒頭の救世主の平木先生がいつ登場してくるのか。やっと第5章で登場した時には罹病してから2年半もの月日が経過し,平木医師の診断結果は,思いもかけない「心身症」からきている腰痛という。筆者も病気の要因はサンペンスのように推理調査できなかっただろうが,読み手の私も全く想像ができなかった。事実,私の妻も「心身症」と診断され,通院ではあったものの,その治療は半年以上にも及んだ。 心の病(ストレス)が原因で体が痛くなるなど私自身も考えられなかったから,私も妻もそこにいきつくまでに,病院数箇所といわゆるおやまの和尚さんの門までたたいたのである。この作品の中での圧巻は,自律訓練や絶食療法での平木先生とのやりとり,そして本人ともう1人の自分とのやりとりであり,病気は老若男女を問わない,病人の真実の叫びであるカルテの生の声には臨場感がある。 ・筆者自身がこの経験で学んだひとつに「人間の中には自分の知らない自分が潜んでいて,その自分(潜在意識)が人間全体(表)を支配することもあるということ。」があるが,妻との経験の中でも最悪の状況のときに,神懸かり的な妻を見てこれはもういままでの妻ではないと感じながら,自分ではどうしようもない歯がゆさを覚えていたことを思い出している。潜在意識が表を支配すると治療は一層困難であることがよくわかる。 ・また,筆者が平木先生と巡り会うまで2年半かかったが,それが再スタートのきっかけになり,半信半疑ながらも身を委ね,それを常に暖かく受け入れる先生も素晴らしいが,治癒するまでの筆者の頑張りにも敬服する。それと同時に平木先生の言葉の中にある「ゆったりとした時間にもしあわせがある。」「有意義に生きることは何もとりたてて立派なことをするだけではない。」のフレーズは,急ぎすぎ効率化ばかりを求め,何かしていないとあるいは常に動いていないと気が済まない,現代人への多くの忠告が入っているような気がしてならない。 |
・とかく時間を急ぎすぎる日本人、改革・改善………あっちこっちに好奇心ばかりあるような人生。自分がこうだから子供もこうあって欲しいかってに行動基準、社会的基準をもうけ、それを子供に押し付け縛ろうとするから心が重くなる。要はなるようにしかならないし、子供は子供それなりに新しい壁を乗り越えていく。子供はこうでないといけないというこだわりは捨てなさいというものである。子供の将来の方向性について、いまだ私自身の針路について、 この方向でいいのか迷い、定まらないように「問題はなにが好きかがなかなかわかりにくい。中学・高校ぐらいでは親だけでなく本人だって自分の好きなことは分からない。」というフレーズは、自分が高校生の頃や会社に入ってからも、本当に自分は何が好きなのか、分からなかったことを今思い出している。 ・40代になってやっと分かったことは、子供の頃好きだったことは、いまやっても集中できるし、疲れがでないのである。「どうせ人間は死んでいくのだし、結局のところどう生きようと人の一生に大差はない。」というフレーズはいささか世捨て人のようであるが、このフレースで心がとても軽くなった。そして、今後は『「大事なのは「時代の基準」ではなく「その子の現実」』と言うところを大切にし、家族の一員として子供を見守ってやりたいと思う。 |
・痛快といえば現在のIQエリートを細かく分析し、歯に衣着せぬ論調でいとも簡単に一刀両断しているところである。とはいえ、全くのエリートではないが、寄らば大樹の私も同じ部類に入るのではないだろうか。特に、政治・官僚・大企業のトップの腐敗が新聞にぎわす中で、官僚接待6つの”せる”「食わせる、飲ませる、振らせる、威張らせる、抱かせる、握らせる、さらにたからせる」には納得する一方、お役所化した企業には共通の病気があるというが、その病気には「前例主義」「ハンコ主義」「エンドレス会議」「肩書き主義」「世間体優先主義」どの項目も当てはまりそうなので、笑ってはいられないのである。 ・また、「日本という国は腐るのも速いが、一方で主役が交代して実力主義の時代が訪れると急激に社会が活性化するという特色がある。」と日本の特色を過去から分析し「いままさに主役交代のタイミングであり、旧体制がシステム疲労を起こし、自壊し始めている。若者よ下剋上の機は熟しているとエールを送り、自分が動かなくては何ごとも成しえない。今こそ野心を抱いて、ガレージベンチャー志向で野戦型エリートをめざせ」と結んでいる。 ・英語、空手、作家とプロに徹し、成功を納めている筆者だからこそ説得力があるといえるのではないだろうか。 |
・特にこの書のチャプタごとの終わりにある「小規模経営で成功する秘訣」というのがあるが、これは決して大企業病になることもなく、官僚主義に陥らないという哲学のようなものが感じられる。実践していることで同感するものの例を上げれば、@意思決定が早くとにかく行動する。A目標をしっかり持つ。B明るい職場とユーモアのセンス、遊び心を大切にC大企業における家族主義D個性の尊重と信頼する心E失敗を恐れず、失敗から学び前進 ・全米NO1企業と言われるのに、CEO以下どの部門の従業員も、同じ目標に向って努力し、常に新しい発想で仕事に取り組んでいる。特に「職場の明るさを大切に育てなければ生産力も創造力も適応力もやる気もしぼんでしまう。」「ユーモアのセンスのある人は変化にも素早く対応できるし、プレッシャーの中で面白いことを考え出すことができる。」この本の中には、女性の職場。女性のできる仕事、男女差別に関する言葉が一切出てこない。「計画が文書化されて金科玉条になってしまうことを警戒している。」 ・大企業病という言葉があるがそんな言葉はこの企業には必要ない。2万人を抱える企業でありながら、家族主義(昔の日本企業)を大切にし、離職率も全米で1番低い。特に前段で抜粋したように明るい職場、ユーモアセンスとか、遊び心、すぐ行動とかいった部分は私自身も大切にしているのであるが、残念ながら、自分が思うほど人は明るい職場とかユーモアには関心がなく、とにかく優等生なのである。 ・つまり、問題を起こしたくない、できれば変化をさせずに現状維持でということになる。何かの改革をしようと壁に当っている人は是非一度読んでみればかならずいい刺激をうける本であると思う。 |
・筆者は、ドイツに在住し、海外から日本を見つづけ歯がゆい思いを感じ、いまの日本は何が問題で何が不足しているのかを、戦後ドイツが歩んできた道のりと比較しながら提言している。戦後の荒廃した日本を復興させ、高度成長時代を迎えた時点で戦後体制はその役割を終えていたのである。日本はいまだにその中でもがいている。冷戦後の融和の世界において、日本は国際的にどの方向に針路をとっていいのかわからない状況ではないだろうか。その針路の先頭に立つ人がまだまだ出ていないような気がする。 ・大企業に個性のある人材が育たないのと同様に人間の器量も逆境に出会わないで成長すると、丸く小さくなってしまう。明治維新の時代にあらゆる分野に傑出した人材が生まれたのも、明日日本がつぶされ、植民地になるかどうかの瀬戸際の危機意識があったからだと私は思う。戦敗国ドイツは多くの国と国境を接し、常に危機意識を感じながら、着実に「信頼される国」となるために、多くの傑出した人材が復活のシナリオどおりに寄与・貢献したのではないだろうか。 ・筆者は「悲しいかな日本、だが望みはある。」という、そのキーワードは規制緩和と女性の政治参加にあると。また、ホンネとタテマエの使い分けが好きな日本人。本音で率直に指摘できる筆者は残念ながら日本人としては異質である。日本はいま、政治、経済、教育あらゆる分野において壁に当っている。外圧を受けないと変心できない日本、規制緩和の波を大波と感じて、どう変身するのか注視したい。 |