• マークス寿子作:ひ弱な男とフワフワした女の国日本
・最近 男が腑甲斐ないのかもしれないが、女性が元気である。今年になって、女性の作品で日本国・政治・世情・人間の本質について提言している本を読む機会が多くなった。「寝たきり婆あ猛語録」「 緑の暮らしに癒されて」「歯がゆい国・日本」いずれも率直に自分の目で見て感じたことを飾り気のない言葉で表現している。特に「歯がゆい国・日本」の筆者がドイツと日本を比較し、提言していると同様に、この作品は現在の日本の文化や社会現象をイギリスと比較しながら分析し、厳しい口調で「このままでいいのか日本・日本人」と多くの警告を発している。ものごとの本質を見失うことなく、病める日本が模範とすべきものをイギリスは多くもっていると筆者は言う。 ・しかし、イMリスは政治経済的には、サッチャー首相からメージャー首相へ交代後、決して、世界をリードするほどの力はもっていないし、狂牛病での対策、環境問題でもいい方向性は出せていない。一方、日本は経済的な面からいうと、戦後復興、高度成長時代、石油シュック後の回復と、1990年以前つまりGNP世界第二位に登りつめるまでは順調に推移してきたが、90年代に入り社会全体が大きく揺らぎだし、金の豊かさからくる拝金主義、受験エリート主義がいま壁にあたり、古い体制がくずれようとしている。真の豊かさ、心の豊かさとはという課題をやっと考えられる時代になったといえるのではないだろうか。そういった意味で繁栄から衰退を経験しながら大人の国イギリスに学ぶものは多くあるのかもしれない。 ・とはいっても、外敵からの影響も受けない平和な日本、1億総危機意識もない時代に若者だけに規律よくふわふわしないで自立せよと求めるのも無理がある。いつの時代も若者は何を求めて生きようかとさまよいながら、短絡的な思考で刺激があるものや快楽に走ってしまうのは昔も今も変わりはないと私は思っている。いま問題になっている援助交際が中・高校生が悪いと言うのではなく、金が欲しい世代と新鮮な性を求める世代とが短絡的に結び付いているように責任ある行動の取れない大人世代にも問題があると思う。筆者が指摘する日本の若者の状態は、中流意識に満足してきた団塊世代が子供世代を受験という名のもとに、野放し状態にしてきたつけが回っているだけのことである。ただ、過去の傾向と少し違うのは短絡・衝動・本能思考のウェイトが増加してきているのは間違いない。 ・一日も早くすべてのメッキを剥がし、表面だけの繕いや、いやなことを先送りにする体質から抜け出す時が来たのだ。この機会に日本、日本人がどう変わるかは政治的に強いリーダーの待望もさることながら、私には関係ないですませることなく、一人一人の責任あるアクションに期待する以外にないのではないだろうか。 ・この作品は、特に物事の本質、一人の人間としてどうあるべきかについて多く語りかけている。たとえば、福祉、不正に対する対処の仕方、物の価値観の捉え方、社会のルール、個性、ボランティア活動、自己主張、個人主義、本当のやさしさ………等、いつまでたっても自立できない日本人へ「早く自立しなさいよ」と個の確立を促しているのである。


  • 夏樹 静子:椅子が恐い
・サスペンス作家がなぜこのようなテーマの本を書いているのか,と不思議に思ったことと,「腰痛」という二文字に興味を覚えて読んでみた。私自身も5年前から腰痛に悩まされ,いまだ完治しているとは言えない。なかよくつきあっているというところであり,いまでも長時間椅子に座っていたり,新幹線で 東京へ出張するときなど,覿面オランウータン姿勢,妻に言わせれば,へっぴり腰のままの歩行がしばらく続くことになる。
・作品には,20を越える医院・病院と世に言う名医という先生たちが登場してくる。その分野と治療方法は,東洋医学,西洋医学に関係なく,超能力・霊の世界も含め,ありとあらゆるもの,そして名医たちはそのたびに診断を下す。黙ってそれに従う筆者,しかし一向に改善しないというより,より悪くなる「腰痛」に対する筆者の苦闘を生のまま表現している。登場する治療法には鍼,気功,ヒーリング,薬物,電気治療,御祈祷,水泳,遠赤外線とその数にも脅かされるが,最新鋭の電子機器を使用しても肉体的な欠陥は一切見つからないのに,なぜ精神的な要因にたどりつかなかったのか。やはり,いまだにメンタルな面から身体へ影響がでるとはほとんどの人が考えられないのではないか。医師でさえこういった状態だから,病人はなおさらである。せいぜい胃潰瘍程度の理解しかない。
・治ると思われる物にはすべてチャレンジし,治そうという筆者の執念,怨念はすさまじい。冒頭の救世主の平木先生がいつ登場してくるのか。やっと第5章で登場した時には罹病してから2年半もの月日が経過し,平木医師の診断結果は,思いもかけない「心身症」からきている腰痛という。筆者も病気の要因はサンペンスのように推理調査できなかっただろうが,読み手の私も全く想像ができなかった。事実,私の妻も「心身症」と診断され,通院ではあったものの,その治療は半年以上にも及んだ。 心の病(ストレス)が原因で体が痛くなるなど私自身も考えられなかったから,私も妻もそこにいきつくまでに,病院数箇所といわゆるおやまの和尚さんの門までたたいたのである。この作品の中での圧巻は,自律訓練や絶食療法での平木先生とのやりとり,そして本人ともう1人の自分とのやりとりであり,病気は老若男女を問わない,病人の真実の叫びであるカルテの生の声には臨場感がある。
・筆者自身がこの経験で学んだひとつに「人間の中には自分の知らない自分が潜んでいて,その自分(潜在意識)が人間全体(表)を支配することもあるということ。」があるが,妻との経験の中でも最悪の状況のときに,神懸かり的な妻を見てこれはもういままでの妻ではないと感じながら,自分ではどうしようもない歯がゆさを覚えていたことを思い出している。潜在意識が表を支配すると治療は一層困難であることがよくわかる。
・また,筆者が平木先生と巡り会うまで2年半かかったが,それが再スタートのきっかけになり,半信半疑ながらも身を委ね,それを常に暖かく受け入れる先生も素晴らしいが,治癒するまでの筆者の頑張りにも敬服する。それと同時に平木先生の言葉の中にある「ゆったりとした時間にもしあわせがある。」「有意義に生きることは何もとりたてて立派なことをするだけではない。」のフレーズは,急ぎすぎ効率化ばかりを求め,何かしていないとあるいは常に動いていないと気が済まない,現代人への多くの忠告が入っているような気がしてならない。


  • 山田 太一作:親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと
・いま二人の子供が、将来の針路を決める時期にさしかかっている。どの程度親が関わればいいのか。父親として、母親として妻と一緒に腫れ物にでも触るようになってしまっている。そんなおりに書店で、この本の題にひかれ、帯の「親であることむずかしく考えていませんか。子供のことで迷ったとき読んでください。心が軽くなる親子論」にひかれ、購入したのである。数時間で読破したが、何か心の重しがすーっととれたような気がする。
・とかく時間を急ぎすぎる日本人、改革・改善………あっちこっちに好奇心ばかりあるような人生。自分がこうだから子供もこうあって欲しいかってに行動基準、社会的基準をもうけ、それを子供に押し付け縛ろうとするから心が重くなる。要はなるようにしかならないし、子供は子供それなりに新しい壁を乗り越えていく。子供はこうでないといけないというこだわりは捨てなさいというものである。子供の将来の方向性について、いまだ私自身の針路について、
この方向でいいのか迷い、定まらないように「問題はなにが好きかがなかなかわかりにくい。中学・高校ぐらいでは親だけでなく本人だって自分の好きなことは分からない。」というフレーズは、自分が高校生の頃や会社に入ってからも、本当に自分は何が好きなのか、分からなかったことを今思い出している。
・40代になってやっと分かったことは、子供の頃好きだったことは、いまやっても集中できるし、疲れがでないのである。「どうせ人間は死んでいくのだし、結局のところどう生きようと人の一生に大差はない。」というフレーズはいささか世捨て人のようであるが、このフレースで心がとても軽くなった。そして、今後は『「大事なのは「時代の基準」ではなく「その子の現実」』と言うところを大切にし、家族の一員として子供を見守ってやりたいと思う。


  • 落合 信彦作:成り上がりの時代
・筆者の作品には海外の政治情勢・政治家や特定の組織(ベールに包まれた)の活動に関するものが多い。単行本でのベストセラーも多いが、その後の文庫本化で私自身も多くの作品を読んできた。「ケネデイからの伝言」「狼たちの伝言」「そしてわが祖国」「アメリカの狂気とと悲劇」「20世紀の真実」「第四帝国」「2039年の真実」゜明日は世界を」この作品は、筆者の作品群の中では異色の分野に入るのではないだろうか。企業家を目指せと若き新しいエリートへ檄を飛ばし、過去、現在の企業家、英雄、成功者と自分自身の体験をあげ、独立するための落合流ノウハウがふんだんに書かれている。
・痛快といえば現在のIQエリートを細かく分析し、歯に衣着せぬ論調でいとも簡単に一刀両断しているところである。とはいえ、全くのエリートではないが、寄らば大樹の私も同じ部類に入るのではないだろうか。特に、政治・官僚・大企業のトップの腐敗が新聞にぎわす中で、官僚接待6つの”せる”「食わせる、飲ませる、振らせる、威張らせる、抱かせる、握らせる、さらにたからせる」には納得する一方、お役所化した企業には共通の病気があるというが、その病気には「前例主義」「ハンコ主義」「エンドレス会議」「肩書き主義」「世間体優先主義」どの項目も当てはまりそうなので、笑ってはいられないのである。
・また、「日本という国は腐るのも速いが、一方で主役が交代して実力主義の時代が訪れると急激に社会が活性化するという特色がある。」と日本の特色を過去から分析し「いままさに主役交代のタイミングであり、旧体制がシステム疲労を起こし、自壊し始めている。若者よ下剋上の機は熟しているとエールを送り、自分が動かなくては何ごとも成しえない。今こそ野心を抱いて、ガレージベンチャー志向で野戦型エリートをめざせ」と結んでいる。
・英語、空手、作家とプロに徹し、成功を納めている筆者だからこそ説得力があるといえるのではないだろうか。


  • ケビン・フライパーグ
    ジャッキー・フライバーグ
    作:破天荒

・トムピーターズの推薦の言葉にあるように、「今年ビジネス書を一冊しか読む暇がない人にこの一冊を」というだけあって、ボリュームもさることながら、過去の成功談、失敗談をおりまぜながら、規制緩和の中での競争に打ち克つには何がいま大切なのかを教示してくれるものがふんだんにある。とはいっても、一朝一夕にこの企業ができあがったものではない。長年の苦労が着実に実を結び、常におごることなく、失敗から学び新しい発想をどんどん取り入れていく。そんなことがごく自然に企業風土としてできあがっているのである。
・特にこの書のチャプタごとの終わりにある「小規模経営で成功する秘訣」というのがあるが、これは決して大企業病になることもなく、官僚主義に陥らないという哲学のようなものが感じられる。実践していることで同感するものの例を上げれば、@意思決定が早くとにかく行動する。A目標をしっかり持つ。B明るい職場とユーモアのセンス、遊び心を大切にC大企業における家族主義D個性の尊重と信頼する心E失敗を恐れず、失敗から学び前進
・全米NO1企業と言われるのに、CEO以下どの部門の従業員も、同じ目標に向って努力し、常に新しい発想で仕事に取り組んでいる。特に「職場の明るさを大切に育てなければ生産力も創造力も適応力もやる気もしぼんでしまう。」「ユーモアのセンスのある人は変化にも素早く対応できるし、プレッシャーの中で面白いことを考え出すことができる。」この本の中には、女性の職場。女性のできる仕事、男女差別に関する言葉が一切出てこない。「計画が文書化されて金科玉条になってしまうことを警戒している。」
・大企業病という言葉があるがそんな言葉はこの企業には必要ない。2万人を抱える企業でありながら、家族主義(昔の日本企業)を大切にし、離職率も全米で1番低い。特に前段で抜粋したように明るい職場、ユーモアセンスとか、遊び心、すぐ行動とかいった部分は私自身も大切にしているのであるが、残念ながら、自分が思うほど人は明るい職場とかユーモアには関心がなく、とにかく優等生なのである。
・つまり、問題を起こしたくない、できれば変化をさせずに現状維持でということになる。何かの改革をしようと壁に当っている人は是非一度読んでみればかならずいい刺激をうける本であると思う。


  • クライン孝子作:歯がゆい国の日本
・戦後の日本は経済的に恵まれ、国連・ODA分担金も世界で2位、G7(8?)の1国でもあるが、国際的評価となると、バブル崩壊後急激にダウンしている。
・筆者は、ドイツに在住し、海外から日本を見つづけ歯がゆい思いを感じ、いまの日本は何が問題で何が不足しているのかを、戦後ドイツが歩んできた道のりと比較しながら提言している。戦後の荒廃した日本を復興させ、高度成長時代を迎えた時点で戦後体制はその役割を終えていたのである。日本はいまだにその中でもがいている。冷戦後の融和の世界において、日本は国際的にどの方向に針路をとっていいのかわからない状況ではないだろうか。その針路の先頭に立つ人がまだまだ出ていないような気がする。
・大企業に個性のある人材が育たないのと同様に人間の器量も逆境に出会わないで成長すると、丸く小さくなってしまう。明治維新の時代にあらゆる分野に傑出した人材が生まれたのも、明日日本がつぶされ、植民地になるかどうかの瀬戸際の危機意識があったからだと私は思う。戦敗国ドイツは多くの国と国境を接し、常に危機意識を感じながら、着実に「信頼される国」となるために、多くの傑出した人材が復活のシナリオどおりに寄与・貢献したのではないだろうか。
・筆者は「悲しいかな日本、だが望みはある。」という、そのキーワードは規制緩和と女性の政治参加にあると。また、ホンネとタテマエの使い分けが好きな日本人。本音で率直に指摘できる筆者は残念ながら日本人としては異質である。日本はいま、政治、経済、教育あらゆる分野において壁に当っている。外圧を受けないと変心できない日本、規制緩和の波を大波と感じて、どう変身するのか注視したい。
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