今週のおすすめ本


ブック名 今日の芸術
時代を創造するものは誰か
著者 岡本太郎
発行元 知恵の森文庫 価格 519円
チャプタ
序文:横尾忠則「岡本太郎は何者であるか」
@なぜ芸術があるのか
Aわからないということ
B新しいということは、何か
C芸術の価値観
D絵はすべての人の創るもの
Eわれわれの土台はどうか

キーワード 芸事、芸術、技能、技術、生活、自由、新しさ
本の帯(またはカバー裏)
「今日の芸術は、うまくあってはならない。きれいであってはならない。 ここちよくあってはならない」斬新な画風と発言で大衆を魅了しつづけた 岡本太郎。

気になるワード
・フレーズ

・なるほど人は、社会的生産のため、いろいろな形で毎日働き何かを作っています。しかし、 いったいほんとうに創っているという、充実したよろこびがあるでしょうか。 正直なところ、ただ働くために働かされているという気持ちではないでしょうか。
・遊ぶにしても、楽しむにしても、ほんとうにたのしく、生命が輝いたという全身的な充実感、 生きがいの手ごたえがなければ、ほんとうの意味のレクリェーション、つまりエネルギー の蓄積・再生産としてのレクリェーションはなりたちません。
・外からの条件ばかりが自分を豊かにするのではありません。他の条件によってひきまわされる のではなく、自分自身の生き方、その力をつかむことです。それは、自分が創りだすことであり, 言いかえれば、自分自身を創ることだといってもいいのです。

・何かを発見すれば、それはまず、あなたにとって価値なのです。 絵はクイズのように、隠された答えをあてるために見るためではありません。 白紙にどんどんぶつかっていき、それによって古いおのれを脱皮し、精神を高めていくべきです。
・ほんとうの芸術は、時代の要求にマッチした流行の要素を持っていると同時に、じつは流行 をつきぬけ、流行の外に出るものです。しかも、それがまた新しい流行をつくっていくわけで、 じっさいに流行を根源的に動かしていくのです。
・人生だって同じです。まともに生きることを考えたら、いつでもお先まっくら。 いつでもなにかにぶつかり絶望し、そしてそれをのりこえる。そいいう意志のあるものだけに 人生が価値をもってくるのです。

・描きたいのに描かずにすましてしまう。そのあとに、自分ではっきりと気がつかなくても、 なんとなく味気ない気分がのこる。そういうことがつもりつもると、生活自体がひどく 消極的で空虚なものになってくるのです。しかも、たいていその空虚さを自分自身で 気がつかずにいるものです。
・表面だけはいかにも本物みたいな果物を描く、というような錯覚の技巧は、けっして今日の 生活感情に触れてくるものではありません。自分が描いてもいい、すぐ描けると思うような、 平易で、単純、だがしかし、生活的な、積極性をもった形式こそが、今日の芸術、 今日の美なのです。
・口さきでは簡単にでたらめなら、と言うけれども、いざでたらめを描こうとすると それが描けない。じつは、このくらいむずかしいことはない、ということに、とっさに 気がつくようです。自分の意志と責任をもってやるでたらめは、ほんとうはでたらめ ではないのです。

・じっさいに自由な気持ちで描くというのは、たいへんむずかしいことです。たとえば人間を 描くとしたら、目鼻に口をつければ、どうやら人間のかっこうに見えたり、ハの字を描けば 富士山ということになって、自他とも安心します。
・私の決意というのは、第一には、きわめて簡単なことです。今すぐに、鉛筆と紙を手にすれば いいのです。なんでもいいから、まず描いてみるこれだけなのです。・・・せんじつめれば、 ただこの”描くか。描かないか”だけです。あるいはもっと徹底した言い方をすれば「自信 を持つこと、決意すること」だけなのです。
・じっさいに絵を描いてみると、こんどは、自分だけの問題でない。意外な障害があることに 気がつきます。・・・どうも家庭というものは、たとえなごやかでも、とかくおたがいが 牽制しあい、ほんとうに自由な生活表現というものができない傾向があります。

・自分の自由な感情をはっきりと外にあらわすことによって、あなたの精神は、また いちだんと高められます。つまり芸術を持つことは、自由を身につけることであって、 その自由によって自分自身をせまい枠の中から広く高く推しすすめてゆくことなのです。
・表現欲というのは一種の生命力で、思いのほかに激しいものです。このことは、子どもの ばあいなどを見ると、ひじょうによくわかります。これをはっきり知るために、 子どもの世界を観察してみましょう。
・芸術は本質的に、けっして教えたり教わったりするものではありません。それはすでに お話したように、芸術がたんに技能ではないからです。自然科学の部門や、また芸ごとの ように技能を修得し、うまくならなければならないものとはちがうのです。

・芸術は創造です。これはけっして既成の型を写したり、同じことをくり返して はならないものです。他人のものはもちろんですし、たとえ自分自身の仕事でも、二度と くり返してはならない。・・・芸術の技術は、つねに革命的に、永遠の創造として 発展するのです。これが芸術の本質です。
・芸ごとはどうでしょうか。これは芸術とは正反対です。つねに古い型を受けつぎそれを みがきにみがいて達するものなのです。芸術は過去をふり捨てて新しさに賭けてゆくのに、 芸道はあくまでも保持しようとつとめます。
・好むと好まざるとにかかわらず、技術は人間の歴史を発展させ、考え方を変えゆくものです。 時代の生活感情から美意識まで、技術が徹底的にくつがえすのです。

・技能とはどういうものでしょうか、技能は、まさに技術とは正反対の性格をおびています。 古いものを否定してどんどん前進してゆくのではなくて、同じことを繰りかえし繰りかえし、 熟練によって到達するのが技能です。「腕をみがく」と言いますが、これは技能なのです。
・私ははっきり言います。芸術なんてなんでもない。人間の精神によって創られたものでは ありますが、道ばたにころがっている石ころのように、あるがまま、見えるがままにある。 そういうものなのです。すなおに見れば、これほど明快なものはないはずです。

かってに感想
筆者の本は、「自分の中に毒を持て」に続いて2冊目である。
またまたいい本に出会えたという感じなのである。
というのは、やっと決意して、いま自由な表現の楽しみに没頭しているからなのだ。

決して、うまいといえない自分の作品が次から次へと出来あがっている。
人真似でなく、へたななりに自分のこの手が作りあげたものなのだ。
作品作りが、なんでこんなに楽しいのか、この本を読んで初めて教えられたのだ。

「芸術は爆発だ」とまではいかなくても、作っても作っても、また作りたくなる。
いままでこんなに仕事以外で燃焼したことはない。
少しぼや程度にエネルギーが燃えているようである。

書き出しは、「あなたはかつて耳にしたことがない、まったく思いもかけないこと、 いままでの常識とは正反対のことばかりを聞かれると思います」で始まる。
この書き出しの通り、思いがけないことばかりが書かれている。
気位が高く、手の届かないと思っていた芸術を筆者は、 「古い考えにわざわいされて、まだ芸術をわかりにくい ものとして敬遠し、他人ごとのように考えている人があります。私は、このすべての人びとの 生活自体であり、生きがいである今日の芸術にたいして、ウカツでいる人が多いのがもどかしい」 という。

そして「あなた自身の奥底にひそんでいて自分で気がつかないでいる、芸術にたいする 実力をひきだしてあげたい。それがこの本の目的なのです」というのだ。
誰にでも芸術的センスはあるのだ、と思わせてくれる。
なぜ、こんなことまで言えるのだろうか。

そのあたりを、読み進めていくほどに「理路整然」と説いてくれる。
「芸術なんてなんでもない」、「芸術と芸ごと」の違い、「技能と技術」の違い。
芸術はわからないと思っている自分たちが、この世界での 物事を混同していることを教えられるのだ。

さらに、こんなことまで筆者は言い切る。
「芸術のばあいは、ちがいます。技能は必要ないのです。無経験の素人でも、感覚と たくましい精神があれば、いつでも芸術家になれる・・・」
そして「芸術は決意の問題」なのだと。

いかがだろう。
少しでも刺激を受けた人は、「見ることから描くことへ」。
とにかくやってみることなのであります。

この本は、1954年に発刊されたものである。
読み進めるごとに、その力強さに圧倒される。
文庫本という小さな本なのに、エネルギーがどんどん伝わってくるのだ。

最後に、そのエネルギーをもらえた多くのフレーズがあるが、ほとんどは「気になる フレーズ」に譲るとして、それでも20フレーズもあるのだから、よっぽど 感動したようである。
特に感動したフレーズをひとつ披露しておこう。
「ほんとうに自由な表現の喜びというものを体得されたならば、パチンコやおしゃべり 以上に、さらにすばらしい生命の燃焼する場所がそこにあることがおわかりになると 思います」
へぼななりに、大いに勇気付けられたのでした。


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