ブック名 | くりやのくりごと (副題)リンボウ先生家事を論ず |
著者 | 林望 |
発行元 | 集英社文庫 | 価格 | 479円 |
チャプタ |
主なチャプタ ①干す干すとき干せば ②アイロン法概説 ③包丁のココロ ④ダンドリキッチン ⑤基礎、工夫そして発明 ⑥奥と表 ⑦せせらぎに洗え ⑧理想の台所 ⑨服装という思想 ⑩非上げ膳すえ膳の論 |
キーワード | 食器、料理、台所、格物致知、使い勝手、こころの豊かさ、知恵 |
本の帯 | イギリスで磨きをかけたリンボウ流「家事の極意」 目からウロコ、実用にも役立つ痛快エッセイ、ジェンダー問題にもするどい一撃 |
気になるワード ・フレーズ | ・洗濯という営為の中で、一番手間が掛かり、なおかつ「拘束的」なのは「干す」行為である。 ・私はワイシャツの山と、アイロン台とを交互に睨みながら、いったいどうしたらこの時間と手間を最小限に抑えることができるであろうかと思案したのである。 ・料理は創造である。創造は楽しい。しかし、義務や惰性でやっていては楽しくないに違いない。 ・そういう手順段取りというものは、ある種のセンスの問題で、料理のへたくそな人は、このセンスに欠けるのである。 ・食事が終わったら、まず洗い桶を洗剤できれいに洗う。ここから片づけが始まる。 ・とにかく男女差別というものは、目に見えるものは比較的単純で、是正もそれほど難しいことではない。男女雇用機会均等法などというものは、そういうもっとも単純な問題が目に見える形で露頭し、一応「妥協」が図られたものにほかならない。 ・すべては「見てくれ」ではない。まず最初に「使い勝手ありき」である。 ・まず食器その「もの」を知ること、いわゆる「格物致知」の心がけが必要だということである。 ・客間や応接間なんてのは、ま、どうでもよいから・・・なにはなくとも台所、そう思うのである。 ・ここでもよく考えて事に当たるという精神がすべての鍵となっているのである。 |
かってに感想 |
なぜこの本を買ったのか、それは29のエッセイの題名が気に入ったからである。 実にウィットに富むものである。二例をあげよう。包丁のココロ、せせらぎに洗え。いかがだろう。 まず最初のエッセイの題からして、次の話しもさぞ面白かろうと思ってしまえるのだ。 それは「鍋を叱る」である。その最初のフレーズが「ステンレスの無水鍋なんてものを、私は調理道具として喜ばしいものとは認めない」 という部分からして、高い金をはたいて買った無水鍋を睨み付ける女性、そんなことありはしないとこの本を投げてしまう女性がいるかもしれない。 と、台所用品あるいは炊事・洗濯等の家事について、リンボウ流に固定観念をすぱすぱと違った観点から実に小気味よく裁いていくのである。 そして、男が「くりや」、この言葉がよくわからなかったが、厨房を論じていること。 さらに、最初のページにはアイロン台の前に立つ筆者の姿を見ると、私のダサさに比べ、わが年齢と同じなのにひげを生やして、髪は黒くて服装もスタイルも格好いいのだ。 単身赴任の私には、いろいろと参考になることが多い。 まずもって、ワイシャツのアイロンのかけ方では、立ってするべしとか、えりさえきっちりあてればあとは適当にである。 写真入りで、そのフローまである念の入れ用に頭がさがる思い。 次に皿の洗い方も実に効率的である、これについても「スピーディー食器洗い」とあり、写真入リのフローがのっているのだ。 男の私でさえ読んで納得できる家事論なのである。 ただ、女性からは途中途中で筆者が「百も承知・・・」と言うように、何かが飛んでくる気配は十分にあるようだ。 この先生の考え方の原点は、「服装という思想」の中にある男女差別論にある。 それは「女性は芋が好きだからなぁ」という芋談義に始まり、甘辛談義、息子と飲みたい親父の酒談義、そして良妻賢母・内助の功談義への展開。 終わりに「男も自立しようじゃないか。・・・自分の服装には自分に責任を持つように・・・『意識における平等』も、まず隗より始めよということである」なのだ、ピ~ンと背筋が通っているのである。 家事における手間で面倒な作業に課題を見つけて、その極意を考える、まさしく企業で取り組むところのQC手法と同じなのだ。また、その問題を抽出する着眼点が実に鋭い。その一部を気になるフレーズで紹介したい。 これは、家事論だからといって、決して女性のためのエッセイではない、男が読むべき本なのである。 |