今週のおすすめ本 |
ブック名 | 勝海舟(2) (副題)咸臨丸渡米 |
著者 | 子母沢寛 |
発行元 | 新潮文庫 | 価格 | 740円 |
チャプタ | @日本丸 A生死 B転変 C東へ D朱たたき E月見れば F同じ国なり G大海原 H立隔つとも I爽風 J富士 K不惑 L冬ぼたん M破墨 N墨梅 O寒月 P京の春 Q青葉の雨 R青鷺 S水打つ 21.夕爽 22.夏木立 23.内患 |
キーワード | 日本人、平等、地位、海軍思想、人に学ぶ、新しい風、子孫 |
本の帯 | 開国か攘夷、黒船の威嚇を背景に条約締結を迫る列国を前に国論は真二つに分断された |
気になるワード ・フレーズ | ・木村さんやりましょう。われわれは、ただやれるだけをやりあいいのです。 真実のところ伝習生には幕府もない、大老もない、ただ百年後があるだけですから。 ・人間は地獄の一丁目を通る度に少しずつ偉くなるもんだ。修業のための修業だけじゃあ、 多寡の知れたもんだよ。紀州沖でほんに死ぬ覚悟したなら、おまえさんも、ちったあ偉くなってる 筈だよ。 ・時世が時世だ。諦めてはいるが、いつまでも旧弊の衣を着てやりやがるかと思うとやっぱり 少し腹は立つ。 ・人間は所詮は成るようによりあ成らねえものだ。好きなようにしておいて、うしろから、 そっとお前、油断なく見ていることだよ。 ・ホノルルに別れた。麟太郎は、港の外へ艦が出ると、ほっとした。航海の事ではない。 自分では、はっきりそれと意識しなくても、なにかしら、同じ人間が、牛馬のように苛められて、 しかもそれに不平をも無きそうに生活している布哇の人達の、出来事の一つ一つを 現在の目の前にしているその日その日に胸が詰ってならなかったのだろう。 ・あんな埃みてえな奴を一人殺ったために、日本国がどれ程の損耗をするか。馬鹿野郎どもが、 国の難儀というを知らねえのか。徳川が困るとか困らねえとかいうけちん棒な話じゃねえのだ。 日本国だ、そんな馬鹿をやられる度に、この日本国が難儀をするのだ。 ・月見れば、同じ国なり、大海原、五百里千里立隔つとも。 ・肩がひどく張るといって、二度も小束で、肩の薄皮を自分で切って、お糸に、桜紙に吸わせて はその血を始末させていた。 ・攘夷もいい、開国もいいが、どっちにしても幕府は、とんと無力なんですよ。 ・第一お前らの面つきだ、いいか、面つきだよ、それが江戸の若えものたあ、まるっきり違って いるんだ。生きてるよ、動いてるよ、な、つまりは、お前らの心が燃えている、動いている、 それがはっきりわかるんだ。 ・麟太郎の顔には、お前さん方、ちっとも御奉公は尽さねえになにか云えば自分勝手に 勲功褒賞の分け取りをやっているか、おいらめ、そんなのあ大嫌えだよ、そんなものが顕々 と見えていた。 ・君のため捨つる命は惜しまねど心にかかる国の行末。 |
かってに感想 | 第二巻の時代背景は、安政の大獄、桜田門外の変、前後の混沌とした頃である。 舞台は、長崎から江戸へそして太平洋上からサンフランシスコ、そしてまた江戸、京、大阪である。 ストーリーは、麟太郎が若者を引き連れて、長崎伝習所においてオランダ人から航海術を 学んでいる中、阿部筆頭老中の死の知らせが届いたところから始まる。 やがて、後の咸臨丸となる日本丸がオランダで建造され、長崎に曳航されてくる。 ここでも面倒見のいい麟太郎の姿が見えてくる。 高額を取りながら、講師として高慢不遜な態度のオランダ人に不満を抱く塾生。 麟太郎には、そんな塾生を、「今、おれ達が、こうした苦しいくじを引いて我慢をしてやらなくちゃあ、 おいらの子や子孫が可哀そうだ。世界に立ち遅れてこの日本国、この神国が亡びて終う」 という危機意識から説得するのである。 一日も早く、列強から学び、海軍を創設することに麟太郎の夢はあるのだが、攘夷だ開国だと 両論が激突する中、幕府自体の体制が急速に弱まりつつあり、なかなかその志達成は見えて こないのだ。 250年続いて来た、幕府の古い慣習がそれを許さないのである。 機会ある毎に進言する麟太郎の周りにはやがて、そのシンパができ、着々と実を結んでくる。 伝習所での5年間の研修を終え、江戸に帰った麟太郎に朗報がもたらされるのだ。 この巻でも、少し目がうるうると来るシーンがある。 それは、莫大な金を取られながら、古木で作られた咸臨丸で太平洋上の航海、往路37日、 ほとんどが時化の状況で無事にサンフランシスコに到着し、見事に礼砲を打ち鳴らした時である。 そして、アメリカの好意により、修理をしてもらった咸臨丸で、復路45日、無事に富士を 見るところである。 帰国後の麟太郎は、とんとん拍子で出世をしていくと同時に、開国論者?として常に命をねらわれる 立場となっていく。 一方で、土佐の坂本竜馬との出会いが、各藩からくる若い力との結びつきへと展開していくのだ。 ただ、麟太郎の夢は、海軍を作り、アジア諸国との連合にあるのだ。 とにかく海が好きで、海軍を作るという海防論なのである。 一巻同様、それぞれの舞台で、小気味のいい勝裁きやなんとも憎らしい勝配慮が出てくる。 伝習所で武士魂を高慢不遜なオランダ人に見せるため、剣術大会をしたり。 咸臨丸乗組員の人選と説得。出発前におたみに長崎のおんな、お久のことを頼んだり。 水主で病いの船頭富蔵乗り組みの骨折り。便乗組みのアメリカ水主の一人が飲み水を洗濯に使用した事件裁き。 礼砲のやり方をそれとなく便乗組の大尉に頼み。笑い絵の草紙事件裁き・・・・・。 この本にはまた、別の楽しみもあった。 それは、サンフランシスコに上陸したときの、咸臨丸乗組員のいろいろな体験である。 ピアノ、馬車、豚の子の丸焼き、靴、女天下。 そして、極めつけは、ホテルでしびんを枕にして寝たという話と、「それからその辺にかまどを築いて三度三度 日本の飯にしよう。油っこい四つ脚の肉なんぞよりあ、お茶漬けで沢庵でやるが余っ程いいや」なのだ。 特に最後のこの台詞なんてのは、最近まで海外旅行を経験した者がはく台詞と何ら変わりはないのである。 さあ次を読まなけりゃと書店を探すが、まだ出版されていない。 5店目でやっと見つけました。 3〜6巻まで買ってしまったのだ。 |