今週のおすすめ本


ブック名 老残のたしなみ
(副題)日々是上機嫌
著者 佐藤愛子
発行元 集英社 価格 1365円
チャプタ ①老薬は口に苦し
②可哀そうなおばあさん
③日々是上機嫌
キーワード 老い,仏教、死後、幸福
本の帯 必殺仕置きばあさんの痛快な一撃、これまでの生き方がものをいうのが老後である
気になるワード
・フレーズ
・いったい何が不安なのか自分でもわからないままにただイライラシテ、文句と要求ばかり口にしている。その一方、現実生活は豊かで便利快適だから、これを捨て失うのもいやだ。・・・そんな矛盾が混乱を生んでいる。浄土があるから安心しなさいといわれても、浄土がある?その証拠は?ということになる。仏教は人を救うことも導くこともできなくなった。
・今、豊かさのみを追って考えることをやめた我々にどんな未来があるのだろう。若者たちを含めた我々は何に向って生きようとしているのか。更なる豊かさと安住に向って?
・現在を生きる人の心から人の情というものが見失われきた。そのために悪霊(怨み、憎しみの意識)が浄化されずにはびこるようになった。
・欲望に素直に生きることが人間らしい生き方ということになってしまったんです。でもそんなのは人間らしい生き方じゃありませんよ。本能や欲望を制御して、より良く生きようとすることが、人間型の動物と違うところでしょう。
・今は「いつまでも若々しく」とか「元気で楽しく生きよう」などといいますでしょう。まるで老人くさくなることがいけないことのようじゃありませんか。あげくの果てには、年をとっても「恋をしろ」「セックスせい」とムリなことをいう。しろというけれども相手なきをいかにせんですよ。
・私は他人にどう思われかということを気にしないんです。他人を恨んだり、恨まれていると考えていきていると生き方が狭くなる。萎縮してくるでしょう。
・肉体が滅びても意識は残るでしょう。霊魂というのは、いい換えれば意識といってもいいんで、この世に生きていた時の意識を引きずっていると、まっすぐに行く所へ往けないんですよ。
かってに感想 この作品は、1996年8月~99年9月に日経新聞等に掲載されたエッセイである。
書店に出向いたとき、筆者の作品を一度は読んでみたいと思いながら、手にとることはなかった。
筆者が年をとったのか、それとも私が年をとったのか「題名」が気になり、そして短文エッセイということもあって、今回はためらいなく買っていた。
第一章の「老薬は口に苦し」では、現代という世の中で役割がなくなった老人、仏教とか、あるいは本当の偉人について、そして「考える葦」でなくなった人間の話しが印象に残る。
第二章の「可哀そうなおばあさん」では、ある漁村の不倫話、サッチーの話、そしてマスコミの浅慮の横行に怒り、とにかく元気のいいおばさんという感じである。
第三章の「日々是上機嫌」では幸福論、老後、霊魂に関する死後の世界、そして今の世の中でたらないものと必殺仕置きばあさんの実力を遺憾無く発揮している。
読み終わってまず思ったことは、女性と言っても、男より肝の坐った人であると。それは、亭主の会社倒産で亭主は逃亡したが、その借金を何も言わずに自分で払ったこと、強盗に入られ塀を乗り越え隣の家に行き、隣人が腰を抜かしたため、ご本人が警察に通報した話しで十分に分かる。
筆者の話には、すでに現代の私たちが忘れたり、なくしている、大切なキーワードが多くある。
「本能や欲望を制御する生き方」「謙虚さ」「老人くささ」「感性」「人の情」「考えること」「精神的な価値」。
そして老後とは「これまでの生き方がものをいう」ものらしい。
さらに、今の世の中の狂いを総括すると「信念も恥もなく、ただ自分の暮しさえよければいいと日本人が考えるようになったことに源があるかもしれません。個人の思想が頽廃すると、社会も国も頽廃するということが今、まざまざと見えてきましてね」ということらしい。
一番印象に残った話は、本当の偉人、松本サリン事件の被害者「河野義行」さんの「突然ふりかかってきた災難をじっと受け止め、愚痴らず怒らずノイローゼにもならず、静かな忍耐の日々を重ねた。・・・・まことの偉人とは不幸を受け止めることによって己れを磨く人だ」という話しである。さて、あなたはどの話しに耳を傾け考えてみるようになるのだろうか。
さらに、「私は他人にどう思われかということを気にしないんです。」とても好きな言葉である。多くの人は他人の目を意識したり、隣が友達がどうしているからと他人に流されてしまうのである。
・老いへもどる