今週のおすすめ本 |
ブック名 | 寂聴生きる知恵
(副題)法句経を読む |
著者 |
瀬戸内寂聴 |
発行元 | 集英社文庫 | 価格 | 499円 |
チャプタ | @生と死 A愛と欲 B賢い人と愚かな人 C善と悪 |
キーワード | 生、死、愛、欲、賢、愚、善、悪 |
本の帯(またはカバー裏) | こんなに分かりやすいお経があったとは! 法句経は、釈迦が折にふれて口にされた話を、弟子たちが短い詩のかたちに起した 「釈迦のことばのエッセンス」 |
気になるワード ・フレーズ | ・無常にめざめよ汚れを清めて生きよ えてして幸福な人、健康な人、順境にいる人が、自分で気づかず人を傷つけることが多いのです。 人の痛みや苦しみに鈍感になっているからです。 ・「時」を悔いなく生ききる。 快楽の時間は短く感じられますが、快楽には必ず倦怠が生れます。どんな楽しいこともそれに 倦みあきてしまっては空しさだけが残っていいようもなく淋しく、そのくりかえしの人生は実に 長く感じられるものです。 ・怨みを捨てたその日から 人間の心には常に怨みが渦まいています。他人から傷つけられたことを、人はなかなか忘れる ことが出来ません。そのくせ、自分が気づかず、どれだけ人を傷つけているかわからないのです。 ・欲張るな傷つけるな あまり蜜を吸いあげると、花だって疲れるし、傷つきます。 ものにはほどほどということがあります。これは男女の性愛にもいえましょう。 いくら性愛が美味しいといっても度をすごせば相手を傷つけるのです。 ・われのものは何ひとつない。 長生きしたくないと思っても、長生きするし、もっと長生きしたいと思っても、ある日突然心臓が 止まってしまいます。自分の内臓ひとつさえ自分の思いのままに出来ないのです。 心もそうです。「わたし」の中には体と心がふくまれている筈です。心だけはわたしひとりのものだと思っても、 本当に自分の心が自分の思い通りに動いているでしょうか。 ・つもりつもれば小悪も大悪 こんな小さな悪事だもの、みつかりはしないし、大したことはないと思うのが私たち凡夫の 考え方ですが、一滴ずつの水だって岩に穴をあけることもあれば、大きな水瓶を一杯にして あふれさすこともあるのです。 ・死んでも生きつづける命、生きていても死んでいる命 人は安逸に心も身もゆだねてはならぬ。つねにはげめという教えです。 ・勝敗を捨てて平和を得る。 生者は必滅するし、万物は流転します。それでも人は力で人を傷つけ、殺してはならないのです。 |
かってに感想 | 過去の偉人は、多くの戒めのことばを残している。 だが、古い時代の人のことばであればあるほど、現代人にとってはどうしても疎遠になってしまう。 その道の人に解釈してもらったり、具体的に現代の事例で示唆してもらえばありがたいことなのだ。 この本は、10年前に「寂庵だより」に掲載された「法句経」(ほっくきょう)を再構成し刊行、4年後に文庫本化 されたものである。 家の宗教が浄土真宗とはいえ、宗教というものに関心を持って生きてきたわけではない。 せいぜい、祖父、父、母、親戚、知人の葬式、法要の時に僧侶のお経を聞く、その程度なのである。 だから、「法句経」というお経も初めて聞く。 だったら、なぜ買ったのか。 生きている以上「生きる知恵」が欲しい、「死」を意識し始めた50代だからということなのだ。 とはいえ、いままで生きてきた生き方がそんなに急に変るものでもないのであるが、とにかく 読んでみることにした。 <はじめに>では、「お経」とはお釈迦さまが歿後、その教えを語り、筆記係が書いたもの。 「法句経」はその中でも一番古いもので、全篇423の詩で構成されているのだ。 もちろん、漢文であり、私の知識が全く及ぶところではない。 競争社会に生きる現代人は、いつも時間に追われ、効率化を重視して生きてきた。 私も含め、生きてきた行程を振り返ってみても、人の勝ち負けや、地位の上下、 男女の愛欲に悩まされ、自分さえよければと人を押しのけ生きてきた、生きている のではなかろうか。 「生、死、愛、欲、賢、愚、善、悪」をキーワードに57篇の詩を寂聴流に意訳し、 私たちの身の周りの問題に当てはめ、解説されているため、凡人には実に分かりやすいのである。 特に私の場合、欲が気になり、注意深く読んだ。 行き着いたことばは「欲望の花を摘むのに、夢中になってる人を死がさらっていく、 眠りのおちている村を洪水が押し流していくように」である。 寂聴解説に寄れば、「そういう生活に溺れている間に、死は突然やってきて命を奪い去ってしまいます。 食べすぎ、飲みすぎ、遊びすぎ、セックスしすぎ、働きすぎ、すべて自分の欲望の花です。 それと気づかず花の毒にあてられていて、ある日、突然取り返しのつかない病気になり死んで いくのです。ちょうどぐっすり眠りこけている村が、突然の洪水で一挙に押し流されるように」 「生者必滅」「会者定離」、 いつ死が訪れるか誰もわからない、それは突然やって来るのだ。 だから、常に「少欲知足」でこころの準備をして生きよ、ということなのだ。 もうひとつとても気になる詩があった。 それは、愚かな戦争が始まったからなのだが、それを最後に抜粋してみよう。 「わたしたちはここ、死の領土に住んでいる、この真実を他の人々は知ってはいない、 このことを人々が知れば争いは止むだろうに」。 私たちは厳然たる人間の命の宿命を自覚しなければならないということなのだ。 |