今週のおすすめ本


ブック名 梅原猛の授業「仏教」
著者 梅原猛
発行元 朝日新聞社 価格 1365円
チャプタ
@なぜ宗教が必要なのだろうか
Aすべての文明には宗教がある
B釈迦の人生と思想を考える
C大乗仏教は山から町に下りた
D生活に生きる仏教の道徳
E討論・人生に宗教は必要か
F日本は仏教国家になった、聖徳太子、行基、最澄
G空海が密教をもたらした
H鎌倉は新しい仏教の時代1.法然と親鸞
I鎌倉は新しい仏教の時代2.日蓮と禅
J現代の仏教はどうなっているか
Kいまこそ仏教が求められている

キーワード 宗教、文明、道徳、自利利他、自己抑制、平等、知恵、慈悲、寛容、多神論
本の帯(またはカバー裏)
やさしく語る「いちばん大切なこと」「この本は中・高校生、お父さん、お母さん、熟年世代に 読んでほしいのです」

気になるワード
・フレーズ

・「神がなかったら、道徳はない。道徳がなかったら人間はなにをしてもいい」 (カラマーゾフ兄弟:次男イワン)
・人は殺生をしなくちゃ生きていけないのですから、生きていくための必要欠くべからざる 殺生はやむをえない。けれど、生きるに必要欠くべからざることでない殺生をしてはいけない。 それが仏教の戒なんです。
・滅諦・・・自分の欲望をコントロールすること、苦諦・・・人生は苦であることを悟ること、 集諦・・・苦の原因は愛欲であると悟ること、道諦・・・愛欲をコントロールするには どうすればいいか、戒律を守り、精神を集中する(定)。

・精神を集中したら、たいていのことはできます。弘法大師は記憶力の増進のためには集中。 禅宗の坐禅というのも集中です。
・お釈迦さんの教えは、欲望を抑えて、欲望をコントロールできる人間になれ、そうすると 自由になれるということです。
・足りることを知る。物質的な欲望はきりがない。

・祈りです。すべての生きとし生けるもののために幸いあれと祈る。
・すべての人に慈しみの心をささげる。
・自利利他・・・自ら利益を得ることを自利といい、他人を利益することを利他という。

・煩悩を断つ・・・煩悩をあまり断ってしまうと、今度はエネルギーがなくなってくる。 煩悩を超えなくてはならないけれども、むしろ煩悩をいい意味で利用していく。
・密教の思想は、闘争があることを認めながら、世界を調和的に考える。調和が一番大事だという 思想を、曼荼羅は持っているわけです。
・皆さんの体の成分は地球と同じですね。だから皆さんがすなわち地球なのです。 大日如来なんです。皆さんばかりじゃなくて、虫にも草にも大日如来がいるのです。

・人間は欲望が捨てられないので、みな隠れて奥さんを囲っていた。だから坊さんの 奥さんのことを隠語で大黒さまというんです。お酒のことは般若湯と言った。
・宮沢賢治は、日蓮の思想の排他的で戦闘的な面は受けつがず、すべての生きとし生けるものと 共感するという面を日蓮から受けついでいます。
・昔の日本だったら、天皇陛下というのは絶対の神さまだからそれに奉仕する。 だけど仏教は自分が仏なのだからなぜ奉仕する必要があるのか。

・人間も宗教より科学を信ずるようになった。
・四十年たって、いまは私も考えが変った。たとえ幻想にしろ、あの世を仮想することによって 文明を創造してきた人類の歴史を温かく見ようじゃないかという気持ちに変ってきたんです。
・異母兄弟というべきキリスト教とイスラム教の対立の根は深く、これは千年の昔から続いている 業です。彼らが正義という思想の元にある自己の欲望を絶対化する思想を反省して、憎悪の根 を断たねばならない。この憎悪の思想の根を断つというが仏教の思想です。
・多神論の復活です。神道も仏教も多神論です。もちろん自分の信じる神や仏も大切にしますが、 他人の信じる神や仏も大切にするという精神です。これは多の尊重という思想です。 生物の世界にはたいへん多くの種があります。そして神さまは多様性を好むということです。 多神論は正義より寛容の徳を大切にします。いま世界で求められるべき徳は正義の徳より 寛容の徳、あるいは慈悲の徳であると思います。

かってに感想
洛南高校附属中学校(真言宗設立)で行われた宗教の授業である。
話し言葉だから実に読みやすく、中学生を対象にしたものだからさらにわかりやすい 内容になっている。
生れて50年以上過ぎたが、宗教について具体的に習ったこともなく、必要性も感じず生きてきた。

宗教について、あえて言うなら冠婚葬祭用宗教であり、オウム真理教などどうしても 胡散臭いものしか感じてこなかったのだ。
読み進めながら、それは間違いだったことがわかる。
科学万能の現代、閉塞感の強い現代、心の豊かさを持つためには、宗教は必要不可欠なものなのである。

読み終えて、何かしら清々しいもの感じさせてもらい、もう一度ゆっくり読みたくなる。
とてもいい本に出会えたようだ。
筆者の声で直接聞けば、さらに心が落ち着くのかもしれない。

まず第1時限では、「科学技術文明は人間を堕落させた、という反省が、いま起っている」 そんな中で、宗教を見直す必要性について論じ、ドストエフスキーの「カラマーゾフ兄弟」 の3兄弟の宗教に対する考え方を引用しながら、有神論でなければ文明も道徳も存在しないと 説いていく。
第2時限では、、 サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」を取り上げて、 世界の文明と宗教の歩みから、現代起っている一神教の キリスト教とイスラム教の対立を浮き彫りにする。
そこに、新しくて古い宗教の必要性を説くのだ。
それは、神道と混合した日本独自の仏教なのだと。
そして、人間と生きとし生けるものが共存しなければ、やがて人類は滅びると

第3時限では、具体的に仏教の始祖、釈迦の人生と思想を考える。
その思想の中心であり、「般若心経」にも出てくる「苦集滅道」の四諦について、 このむつかしい言葉を実にわかりやすく説いているのだ。
この時限には、釈迦のいい言葉が載っているので、2つ抜粋してみたい。
「人は生れによって聖者(しょうじゃ)たるにあらず」
「自己のよりどころは自己のみである
自己のほかにいかなるよりどころがあろうか
自己のよく調御(じょうご)せられたとき
人は得がたいよりどころを得るのである」

第4時限では、釈迦入滅5百年後、山から下り、町へ出て悩んでいる人を救うため、 大乗仏教をはじめた龍樹の話と「般若経」が要約された「般若心経」のエッセンスを紹介して、 釈迦の教え−平等、知恵から自由に、慈悲 −を説いている。
第5時限は、仏教と道徳の関係そして、第6時限で学生による「人生に宗教は必要か」の討論。
第6時限から10時限では、仏教の歴史へと入る。
そこには、聖徳太子、行基、最澄、空海、法然と親鸞、日蓮と禅が出てくる。

歴史は分かったが、それでは現代の仏教はどうなのかを、第11時限で。
ここでは、明治以降天皇教になり、仏教が排除された。
わずかに、文学者、作家が宗教の大切さを語ったと。
特にここでは、筆者が好きだという宮沢賢治を取り上げ、「現代の宗教は疲れている」 と言う賢治と同感の筆者、そして 筆者自らが無神論からの変節を語っているのだ。
最終時限は、ちょうどアメリカで同時多発テロに行われた授業で、「いまこそ仏教が求められている」 と語り、仏教国日本は平和運動の先頭に立つべきだとも。

終わりに、この授業は、中学生を対象に行われたものだが、平和ボケし、今の今まで真剣に 「生き方」について、考えて来なかった私を含めた戦後世代にとって、 死も決して遠くなくなった世代にとって、 改めて宗教とは何ぞやと考えてみるいい機会を与えてくれると思う。
是非読んでもらいたい一冊である。

いよいよ最後に「この本の教え」を忘れないためにも、 自利利他の精神、四弘誓願(しぐぜいがん)を書いておきたい。
衆生無辺誓願度(しゅじょうむへんせいがんど)
煩悩無数誓願断(ぼんのうむしゅせいがんだん)
法門無尽誓願学(ほうもんむじんせいがんがく)
仏道無上誓願成(ぶつどうむじょうせいがんじょう)


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