今週のおすすめ本


ブック名 峠(上)
著者 司馬遼太郎
発行元 新潮文庫 価格 700円
チャプタ

①越後の城下
②一六文
③横浜出陣
④旅へ
⑤ちりの壷
⑥備中松山藩
⑦庭前の松

キーワード 学問、おんな、実学、世の動き、人を動かすもの
本の帯(またはカバー裏)
壮大な野心を藩の運命に賭して幕末の混乱期を生きた
英傑の生涯
気になるワード
・フレーズ

・人間はその現実から一歩離れてこそ物が考えられる距離が必要である。刺激も必要である。愚人にも 賢人にも会わねばならぬ。じっと端座して物が考えられるなどあれはうそだ。
・「愚考いたしますに人というものが世にあるうち、もっとも大事なのは出処進退という4つでございます。 進むと出ずるは上の人の助けを要さなさねばならないが、処(お)ると退くは人の力をからずともよく、 自分でできるもの・・・」
・「・・・学問を職業のようにいたしおる者が多く、実学の人すくなきように思われます」

・旅のなかでこそ、わが一己がこの浮世でいかにあるべきかを思い至れるような気がする。
・書物の種類がすくなかったころだけに、人がいわば書物のような時代であった。
・継之助の場合、書物に知識をもとめるのではなく、判断力を砥ぎ、行動のエネルギーをそこに 求めようとしている。

・学問はその知識や解釈を披露したりするものではなく行動すべきものである。
・改革者というものは多く美名が残らない。
・前半は、何事もなかった。後半、この人物はその性格と思想どおりみずから進んで険峻に よじのぼり、わざわざ風雲をよび、このため天地が晦冥するほどの波瀾をよぶのだが・・・。

・この男が幕末の風雲のなかで最初にやった事業は、皮肉なことに藩主の官職をやめさせることであった。

かってに感想
歴史小説は実に面白い。
特に、実在の人物の残したものをたよりに、その人の考え方や、その主人公の周囲に 関わってくる人の輪、そして歴史上の大きな出来事、知られざる事実・・・・。
あっという間にその世界に魅せられてしまう。

司馬遼太郎の世界、吉村昭の世界は私を夢中にさせてしまう。
久しくボリュームのある歴史小説は読んでいない。
1年数ヶ月前に読んだ子母沢寛著、勝海舟全6巻以来なのだ。

読む粘りがなくなったせいか、「峠」全3巻。
手を伸ばすのを躊躇っていたら、ひょいと押す人がいた。
それは著者自身なのだ、という言い方は可笑しいかもしれないが。
実は、この本を読む前に、「司馬遼太郎全講演(1)」の中に主人公の河井継之助の 死に様の話が出てくるのである。
さらに、名は忘れたが、官軍側として河井長岡藩と戦った隊長が、自分が円熟してから 河井の死を惜しむ話も出てくる。
これが気になり頭に残っていたからなのだ。

「峠」、司馬遼太郎、帯の英傑って誰だとカバーの裏を見て・・・
・・・河井継之助は、いくつかの塾に学びながら・・・・
これで買求めた。

前置きが長くなった。
上巻は、二度目の江戸遊学のために、32歳河井継之助が、 藩の主席家老の家を何度目か訪ねるところから始まる。
と言っても、帯に出てくる「英傑の生涯」とは程遠い、ほとんど「おんな遊び」の話なのである。

おんな遊びは、江戸へ出る前の芸者あそびに始まり、江戸への旅時での旅籠の酌婦、 江戸での遊郭の女郎、そして新しい師-備中松山藩儒者山田方谷-を求めての旅。
この旅でも、旅籠の遊女・酌婦、そして京都の地女の元女官と続くのであります。
この女の話が、師に会い学ぶまで続くのだが、ほぼ5分の4なのだ。

こういった男と女のあっけらかんとした関係を、スイスからやってきたスイス商人 ファブルブランドのキリスト教国と対比させているところもある。
江戸時代の性風俗を垣間見ることができる。

新しい師を求め、また長崎への河井継之助の旅は、旅日記「塵壷」に書かれているようだ。
この小説に書かれている、おんなの話も出ているのだろうかと考えてしまう。
ただ、おんなの話ばかりではない。
古賀謹一郎の私塾・学塾等過去学んだ人たちの輪から、 この旅ではその恩師等との再会を果たしている。
当時、旅での訪人癖は、「人に会うこと以外、自分を啓発してゆく方法がなかった」とも書かれている。

さてさて初っ端に実に面白いと書いたのだが・・・。
それは、遊学を終え、自費での山田方谷への師事、長崎見学も終え、故郷へ帰った主人公。
中巻への大きな展開を思わせるところなのだ。

それは、藩主牧野忠泰が京都所司代に抜擢され、これに対して継之助が家老に「辞退するように」 という意見具申から始まる。
まさに歴史は明治維新へと大きなうねりが起ころうとしていた時。
尊王攘夷で公家が京都で台頭し、京都ではすでに幕府の権威は失墜していたのである。

早く次が読みたし、書店向わねば・・・。


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