今週のおすすめ本 |
ブック名 | そして、こうなった
(副題)我が老後4 |
著者 |
佐藤愛子 |
発行元 | 文春文庫 | 価格 | 470円 |
チャプタ | エッセイ20編の主なもの @怒りのゾンビ Aハゲ丸シジミ目のミコト B初夢勝負 C私の古傷 D男の衰退を歎く E竜神さんは怒りん坊1 Fまだ生きている イラスト・市川興一 |
キーワード | 同年代、人生相談、病、ペット、世間の話題、霊、母・娘・孫 |
本の帯(またはカバー裏) | 「おじいちゃんのこと、アイしてた?」離婚した夫のことを孫から聞かれた日、 その本人が訪ねてきた・・・!! お腹の底から笑いと勇気がわいてくる。 |
気になるワード ・フレーズ | ・昔は会えば話が弾んだ旧友と話しをしても、楽しいどころかうんざりしてくる。 血圧とか、コレステロールとか、アルツハイマーの予防とか、黄色いタクアンは癌の予防 になるとか、リウマチ、原因不明の腰痛、健康食品、癌のあれこれ、竹踏みの効用、 そして落ちつく先はポックリ寺・・・私は全く興味がない。 ・夫が死んで2年経った今も彼女は夫を許していない。いや相手(コンピュータの完璧さで 苦しめる)がいなくなったことで、間断なく憤怒が燃えてくる。そして「完璧な献身」をして いた時間の空白が彼女を苦しめているらしい。 ・ああ、暇はいけない。「のんびり」がいけないのだ。人にもいろいろあって、 のんびりした時間を持つことによって、新しい力が湧いてくるという人もいれば、「のんびり」 と性が合わぬという人間もいるのだ。悲しいかな私はその後者らしい。 ・ああ日本人、どうなっちゃたんだ。かつて我々の美徳であった礼節と忖度の心はどこへ行った。 非礼を非礼とも思わぬ無知、人を人と思わぬ非常識。 ・ああ、それなのにこの頃の私は凡夢も悪夢も見なくなった。おしっこをしたいのに、 どこの便所にも人が入っている。入っていない所は黄色いうんこが散乱している、といった そんなありふれた夢すら見なくなった。 ・ヤラセを考える人、それに乗る人、乗せられる人、ひっかかる人、泣く人、怒る人 そして視聴率の高さにほくそ笑む人。何ともややこしい世の中になったものだ。 真実を追究することはどうやらヤボということになるらしい。 ・「否!萎えたのです!ガッツを捨てた。女みたいになったんです。スリルよりも、手っとり早く 目的を遂げたいと思うようになった。かつて男が狩猟を好んだのは獲物を捕獲して食べる ことよりも追うことが面白かったからでしょう。しかし今は釣堀でフナを釣って喜んでいます。 このままでは日本はどうなるか!私は心配せずにいられない」 ・同じ時間を共有していても、思い出の形というものは人によって違うものであることが よくわかった。 ・今は「仲よしごっこ」の世の中だ。「仲よし」ではなく「ごっこ」であるから、微笑みの奥に 瞋恚のおきが積もっている。それが積もり積もってある日爆発する。すると忽ち マスコミが飛び跳ねて一億総評論家、総分析家。 ・日本には「下手の考え休むに似たり」という諺がある。もうこねくり廻して考えるのを やめようではないか。自然に戻ろうじゃあないか。単純に、素朴に生きようじゃないか。 腹が立ったら遠慮せずに怒ろうじゃないか。 |
かってに感想 | 待ってました愛子さん、我が老後の第4段であります。 いつもながらひとつひとつの話が誠に面白い。 今回は、20編のエッセイ、5〜4年前に書かれたものである。 ということは、ご本人は存命であるからして、もう80歳現役作家なのです。 この「そして、こうなった」を書いて・・・、そしてある日、死ぬ。 ということで「『有終の美を全うした』ことになりはしないか」と冒頭の「気概の果」 でおっしゃっていたのだが・・・お元気のようである。(訃報を聞いていないので) なんでこんなに面白いのだろうか。 それは、それぞれの話に登場してくる限られた人物と愛子さんとの会話・やりとりと 話の引出し方が実にうまく相手もついつい乗せられている、そして、 落語・小噺にきっちりと最後にオチがあるからなのだ。 加えて、適度?にあるお色気(下ネタ)も大いに笑いの相乗効果に なり、「ああ」という言葉の後に続く、愛子さん歎き・この世の矛盾・お怒りがほとばしって なるほどと思わせるであります。 もう少し加えて、話の題名・イラストが誠に書かれてる内容にピッタシなのである。 また、読後感のすっきり感はなんなんだろう。 ご本人がおっしゃるように、人間にとって大切なこと、「大いに怒ること」。 怒った内容が内なる思いも含め、そのまま描かれて、 筆者と一緒に溜飲が下がるのであります。 さてさて、面白いというからには、おひとつだけ私の お気に入りのものを紹介し、残り19編は書かれている内容の キーワードだけということで。 まずは、お気に入りは「怒りのゾンビ」のお話の始まり始まり。 話は、長年の愛読者A子さんが、愛子さん訪ねるところから・・・。 A子さん、最近夫が死んで、いまだにその夫の浮気が許せないわけで、 その話を離婚経験者の愛子さんに聞いてもらいたいとやってきたわけで ございます。 30年前の夏の日、献身的な妻A子さんは、 風邪で役場を休んでいたご亭主のためにと、 かぼちゃと好きな枝豆を安く分けてくれる農家にカンカン照りの中、 出かけておったわけです。 汗まみれで帰宅したら、どういうわけか蚊屋がはられていた。 昼間からです。よく見ると蚊屋の中でうごめく影。 ご亭主と隣の奥さんがヤッテル最中ダッタンデスなあ。 何が許せないって、この隣の奥さん、 Aさんの5つも年上だったそうで。 それからというもの、家庭内離婚状態で、 ご亭主、その翌年脳溢血で倒れ、寝たきりになったのです。 Aさん看病すること20有余年。 この話を聞いていた愛子さん、A子さんが帰った後、 「自分の記憶の底に押し込めていたあのことこのことが ゾンビのようにムクムクと起ちあがって来て、 枯れた筈の憤怒の火柱が胸を焦がし、いまだに鎮まらないのである」 なんて終わりに書かれている話なのです。 次に残りの出し物の内容キーワードでございます。 同年代の話題・健康、円形脱毛と白内障、講演会の仲介者、娘と初夢比べ、 ペットのスカンクと猫、母のこと、別れた亭主と孫からの質問、サッチー、 男の風俗、母の自慢話と女学生のころの思い出、青大将と竜神さん、 霊、喜寿を迎えて、テレビレポーター、人生相談、孫の3分間スピーチ、 君が代を唄う中居君、森前首相の舌禍。 まあどの話が面白いかは人それぞれ、 最近腹が立つが思うように言えなくなったとお歎きの方には、 是非一読していただき、すっきりしてもらいたいものです。 |