今週のおすすめ本


ブック名 ニッポン発情狂時代
(副題)性の王国
著者 佐野眞一
発行元 ちくま文庫 価格 882円
チャプタ
①コンドームの20世紀
②買春ツアーの構造
③ソープ村の社会学
④セプテンバー・セックス

キーワード ウラの世界とオモテの世界、性意識、性の歪み、高齢化社会の性、性のレジャー化
本の帯
かつて、東南アジアの買春観光などで、世界中のヒンシュクを買った日本人。
ちょうど高度経済成長のエネルギーが性欲へと移行したかのような時代であったのだ。

気になるワード
・フレーズ

・ビジネスとわりきられてしまえばそれまでだが、日本人の女が国籍を同じくするタイの女を 日本の男に斡旋している光景は、やはり目をそむけたくなるものだった。
・むろん、而立、不惑の男たちが、ロンパールームの生徒よろしく、女性ガイドに引き連れられて 女漁りしている図も同断で、情けないやら、恥ずかしいやら、ただうつむくほかなかった。
・客の払った金は、直接女にいくのではなく、エージェントへの上納金、ランドオペレーター、 ガイド、置屋、女という風に逆流しているわけである。

・日本という巨大な”ムラ社会”のなかでは、その幼児性は顕在化することがないが、 ひとたび”ムラ境”を越えたとき、突如としてその幼児性が裏返しになって頭をもたげてくる。
・燃えあがる春と死に絶えようとする冬の間に訪れる季節という意味で、ヨーロッパでは、老人の性 を「セプテンバー・セックス」と表現している・・・。
・老人が一番恐ろしいんは、独りになること、孤独や。ここんとこなにもせんで、老人福祉やなんやら いうのはおかしゆうて、情けないですわ。

・「生む性はよいが、生まない性はよくない」という古典的二重規範からきた文化的抑圧が、老人 たちを性の現場から遠ざける大きな要因となっていることである。
・最初にきたのは匂いだった。すえた食物を鼻先にもってこられたような匂い、オムツと便の 匂い、そしてすっかり熱を失いながらも、目といわず鼻といわずしぶとくからみついてくる ねっとりとした菌糸のような死の匂い。

・死を含めた他の季節についてはひどく饒舌な人間が老いという季節についてはふいに口を閉ざし てしまうのも、この決して馴れることのできない匂いのためだろう。
・男は想像力によって性を開示し、女は肉体によって性を開示するおそらく万古不易と思われる 法則は、老人の世界をも支配しているようである。
・寮母がいった言葉にも、ふかくゆさぶられてしまうのはなぜなのか。「あまり長生きしたくあ りません。年をとる前に・・・死にたいと思います」

かってに感想
1980年から1981年にかけて「週刊文春」に、<ドキュメント・ニッポンの性>として連載されたものの文庫本化である。
筆者は、あとがきにあるように、「『性』という分光器を通して現在の日本の<世相>と<文化>の位相を一瞬でもかいまみてもらう」ということ にポイントを置き、そしてそれぞれのチャプタでは、次のようなことをねらいとして描いているという。

まずは、「コンドームの20世紀」では、避妊具に反映された性意識の変遷、「買春ツアーの構造」 では、東南アジアと日本の歴史的関わりからくる性の歪みの構造、「ソープ村の社会学」では、 高度成長による性の地殻変動、「セプテンバー・セックス」では、高齢化社会の到来による性の地殻変動である。
この時代から20年以上たった現在では、「テレクラ」「性感マッサージ」「ホテトル」「援助交際」隠微な世界の話だったものが、 いまではあっけらかんと性を楽しむ時代になってしまっているようだ。

これはゆきつくところまでいってしまったのか、さらにまだ変遷をし続けるのか。
それはさらに20年後を見なくてもわかるような気がする。
それは時空間を超越したインターネットという時代になって、さらに様変わりしているように思える。
ただただ、することは同じなのに、古くて新しきことなのだと・・・。

過去性をテーマにした本はいくつか読んできた。「アメリカの性革命報告 」「江戸の性風俗」 「男と女の『欲望』に掟はない 」「飽食時代の性 」「男の性解放 」「悩み多きペニスの生涯と仕事 」
私自身の気持ちの中に、人間の本質を見極めたいとする意識が、常に性に対する興味を持たせているようだ。

たんなるスケベエーといわれるかもしれないが。
4つのテーマのうち、50代を過ぎ特に興味深く読んだのは、 コンドームの話題でも、買春ツアーの話題でもなく、ソープの話題でもない。
さらなる少子高齢化時代を迎えている21世紀、いまのまま生きていることが続くならば 間違いなくくる高齢化。

ずばり高齢化時代のセックスをテーマにした「セプテンバー・セックス」なのだ。
老いの性は不潔なものとして隔離されていた時代から、少しずつ変化していく時代を、 40代以上のシングルを対象にした集団見合い会場、各地の老人ホームを取材して描かれているチャプタである。
なぜかといえば、老いるに従い人間は、それぞれ自分の根底・潜在意識の中にあるものが、 表に出てくると、私は思っている。

それは性欲であり、金欲であり、出世欲であり、名誉欲である。
特に私の場合、いくら呆けても性欲だけが無くならないような気がしてならないからだ。
そんな自分を勇気づけるというか、なぐさめてくれる言葉が、 老人たちが吐く多くのホンネの言葉や介護をする人たちの言葉に表現されているからなのだ。
清潔好きで、外見にこだわる若者、老いを特に嫌い若く見せたいと 思う老人(?)たちにとっては、たんなるスケベエ爺の叫びにしか聞こえないかもしれないが。
ただ恋する老齢の男女は、いつまでもいきいきと元気であることには間違いないことらしいのだが。



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