今週のおすすめ本


ブック名 楽老抄
(副題)夢のしずく
著者 田辺聖子
発行元 集英社 価格 1470円
チャプタ @私,中年アリスです・・・まいにち薔薇色
A酔生夢死・・・日々雑感
Bひらかな文化・・・読書のたのしみ
C露ちるや・・・思い出あれこれ
主なエッセイ
@万能
Aなんぼのもんじゃ
B弱み
C力(りき)
D男の自立
Eはんなりて
Fテレビと小説
G新春断想
H夢ふたつ
I読書の楽しみ
キーワード 読書,作家仲間の思い出,日記
本の帯 オトナの時間をはんなりと生きる人生の楽しみの底が深くなる。夢を紡ぐ中年アリス・お聖さんの芳醇なエッセイ
気になるワード
・フレーズ
・阪神大震災に遭ってオタオタした私に「それは信仰心がうすい」。生家の宗旨は 仏教であるが,私は篤信家ともいえず,宗教的知識にも乏しい。はずかしい。 しかし,昔から超越者の存在を感じており,何かによって生かされているという気 はうすうすしていた。年を加えるつれ,その気は強くなるのを感じている。
・近来,老いに関する考察が流行であるが,案外老齢といいがたい中年の人が,老 いについて発言していることが多い。
あれは自分たちの年代が,更なる上の世代に悩まされぬよう,自戒とみせかけて老 人を牽制・恫喝しているとしか思えない。私は老いれば,もう自戒することなんぞ ないと思う。
・弱みこそ,人間を人間らしくあらしめ,味を引きたてる香辛料のようなものであ る。弱みのある人はどこかやさしい。病い持ちが身を庇い,屈強の人間とのつきあ いから一歩引こうとしているさまに似ておくゆかしい。
・「飲んで欲しやめて欲しい酒をつぎ」オトーちゃんがあない喜んではるのやなら 飲ませてあげたい。けど,体のことを考えたら,もうそのへんでやめて欲しい。や さしい妻の矛盾する気持ち。
・私は,もし青春時代に還れるならば,という悔いは一度も持ったことはないが, ただ1つ読書に関してだけはある。・・・・あとで読もうと思っても果たせぬこと が多い。人間の読書の手持ち時間は意外に少ないのである。
・私は,シューと消えるというのが好きなので,一つずつ浮世の仕事を減らしてい く,というぐらいしか思い浮かばない。花火のようにパッと消えるのはよろしくな い。人魂のシッポ型が望ましい。
かってに感想 「生と死の接点」「臆病な医者」等と人生論の基本に関わる事について書かれた 本を最近は読んできた。
どちらかといえば,若い時にはほとんど考えたこともなく,ただぼんやりと何と なく,あるいは触れたくないテーマであった。
だから,読む側も少し構えて,うち向き,深刻になり,暗くなるようなテーマが 続いたように思う。
別に意識して買ったわけではない。今回は少し意識して人生を楽しく老いる,そ んな話題の本を選んだ。
本の題名は後でつけたものだろうが,この作品もすでに91年から97年にわた って発表されたエッセイが集大成されたものである。
率直な印象は,第二の人生における女性は「力強い」という一言である。
さほどわくわくしたとか言ったものでもない。大阪弁(私たちは関西弁と言って いるが)の「まんにゃ」「ちゃうんちゃう」「しよる」「まへんか」「おまっ せ」といった方言の言い回しにとても温かみを感じ,さらに少年時代を思い出さ せる,映画,南京虫,将棋の駒立て,ブロマイド,おまけなどの話に時を急がな い,セピア色の世界を連想しながら読み進んだ。
読みながら,少し困ったのは漢字の読み方がわからないのが,ポロポロッと出てく ることである。また,読み方も少し違い余韻が残るようなこんな読み方もあるの かと感心しながら,言葉を知らないことをしみじみと感じた。
 特に印象的な言葉として,大阪独特の人物評・モノの表現で「はんなり」とい う言葉である。そこにあるだけでまわりの空気が暖くおかしくにじみ出すことを いうらしい。関西弁と同様になんともいえぬ,笑みが思わず湧いてくるような感 じなのだ。
実にいい表現だと思う。私の周囲でそんな「はんなり」が一人だけいる。あなた の周囲はどうだろうか。
 もうひとついい言葉がある。仮に妻に先立たれたとして生き残った男が世渡り をする術が「男の自立」として記されている。一般的には,「男やもめにウジが わく」と言われたり,男はなかなか立ち直れないとも言われている。
 「唯一,何とか生き延びる道は2つ。これを教えてやろうと思う。1つは『あ りがとう』というコトバ。1つはにっこり笑った顔のいいこと」だそうである。  私の場合,ありがとうという言葉はごく普通に言えるようになっているが,笑 顔を作るのは実にむつかしいと思うのだが。ちょっと鏡を見るとき意識して笑顔 を作る練習でもしてみようか・・・・。
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