読み感
  • 辛淑玉作:不愉快な男たち
男・学歴優位の現代社会は,10年前に男女雇用機会均等法が施行され,企業内に総合職という制度ができたものの,女性採用の本質は変わらなかった。
 さらにバブルが弾けて女性の有職率は悪化していったのである。この4月に一部改正が施行されたことで表向きは変わる。しかし,本音と建前がまかりとおる企業社会では,何かと理由を付けて男でないとできない仕事は多くあるといいつつ,とても一気に解消できるとは思えない。
 明治維新が下級武士・公家による革命で,搾取されていた農民の革命になりきらず,表向きの身分制度は,士農工商から四民平等とはなったが,真の平等とはなりえなかった。武士階級の多くのものがいわゆるリストラにあった。一番虐げられた人たちはほとんどかわらなかった。それはいまでも部落問題を始め,病気に関する差別等,人権に対する差別意識は依然として根強くあることでもわかる。
 企業という競争社会は,男女平等以前に人間平等という考え方が通用しない。企業社会では,優劣をつけることが,結果として,その人間の価値を決めてしまい,組織の上下関係以上に人間の上下をきめてしまっているように見える。組織を離れても「自分はあれより上だ」と勘違いしている輩が多いことでもわかる。
 そういった意味で,副題に「私がアタマにきた68のホントの話」とあるように,女性の目からみた男優位の社会を痛烈に批判している,この本を読み終わっての率直な感想は,男社会が憐れで実に滑稽であり,明治維新の武士階級のような,その結末まで見えてしまう。
 「女は楽でいいよなあ」どうぞどうぞ女になってください。「専業主婦は楽でいいよなあ」「OLは楽でいいよなあ」のフレーズから始まる,女の目から見た男社会の矛盾点が容赦なく指摘され,批評は最初から飛ばしっぱなしという感はあるが,あとがきに3年かけてやっと出版にこぎつけたというところを読んで少しほっとした。
 ただ,男女格差の矛盾点は,失速する経済・男女雇用に関する法の改正とともに,吹き出してきそうである。日本ではタブー視されてきた部分に遅まきながら,性差別革命により,日本という国全体の根回し体質・もたれあい体質,腐敗体質,経済優先から地域生活優先へと大きく変化することは間違いない。
 少しおかしいと思ったのは,男女の性差・役割とか男らしさ女らしさに疑問を持ちながら,本の帯には「どの男よりも男らしい女性評論家」という表現がされている,ということは,編者には,それなりに男女の役割・行動とかの一定の固定観念があるのではないか。
 巻末にあるセクハラ訴訟の例示は,いままで声をあげられなかった女性たちが,いつまでも男性優位の企業社会で悶々と耐えていたものがごく普通に出ているのである。
 企業社会の中で,女性の人権を無視してきた男の目は,根本から見直すべき事なのである。明治維新においても,なかなか過去の栄光が忘れられなかった武士階級と同様,男社会で優位な位置を武器に生き抜いてきた輩にとっては当分昔の権威にしがみつかざるをえないだろうが。
 どのチャプタ−「男の論理は,いつもひとりよがり」「その無神経,女には大迷惑」「体は大人で頭はお子さま」「差別を差別と思ってない生き物」「自分は悪くない,は大まちがい」−の表題を見ても,また,あとがきの「それにしてもこんな男たちをのさばらしておいて日本に未来はあるのだろうか。書いていながらむかつき,むかつきながらまた書き・・・」というアタマにきたとか,むかつくというフレーズが使われているだけでも,毛嫌いしてしまい,忌避して読まない男は多いのではないだろうか。
 終わりの章には,「男自身が変われば」という救いがあるフレーズ−「それにしても男はいつになったら気がつくのだろうか。企業奴隷の男たちは,周辺雑務をしてくれるさらなる奴隷を望むものだ。女がなりふりかまわず男のように働く環境を維持し続ける限り,男自身が企業社会の抑圧から解放されることはない。大切なことは男も女も,抑圧されている構造を改善することではないか」−が見える。しかし,いずれにしても抑圧から解放されるためには,まず読んで「男よ目覚めよ」ということなのだ。
 そして,筆者が性差のない新しい時代のキーワードを示しているフレーズがあったので照会すると。
 「情報化時代のいま,必要なのは,価値観も言語も文化も違う多様な人たちとのコミュニケーション能力であり,パフォーマンス能力だ」「過去から学ぶ男たちには,これから来る新しい時代の,男女共生のノウハウは身につかない。そんなノウハウは,どんな歴史書にもないからだ」「体力勝負では,女性が男性に勝つことは大変であったが,知力勝負となれば男女の差はない。もちろん年齢の差も,国籍,障害の有無も関係がなくなったのだ。必要なのは『知恵』だ」これらのフレーズにあるように「コミュニケーション能力」「パフォーマンス能力」「共生」「知恵」ということになるのである。
 


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