読み感
  • 岸田秀作:「日本人の不安」を精神分析する
人間は本能が壊れておりいろいろな幻想を糧にして生きないと生きられない。前回のおすすめ本「すべては空だ」(ひろさちや著)にあった「空」という仏教用語とこの本のキーワード「幻想」。多くの人間たちは目に見えないものに振り回されながら結局何もつかめないまま一生を終えてしまうのではないだろうか。
筆者は最近の事件・風俗「酒鬼薔薇事件」「オウム真理教」「援助交際」「官僚汚職」「ペルー人質事件」等にかかわった人間の心理を分析し,唯幻論を展開していく。
また,「今の親が駄目で昔の親がよかったなどというのは幻想である」「子供が純情であるという幻想」「売春はかっての必需品から幻想商品を売る商法になっている」「日本の官僚が優秀で清潔であるという幻想」等いろいろな幻想を指摘しながら現代人は,たんに人間の本質に対する認識が不足しているだけであって事件として驚くべきことはないし,今昔大差があるものではないという。
ただ,すべてが「空」だ!「幻想」だといわれても生身の人間としては実に侘びしいものを感じてしまう。だから,その侘びしさを充足するため,人それぞれが物欲,金欲,出世欲,名誉欲,性欲にのめり込むのではないだろうか。
一方で幻想を抱かせてくれる信じるに足りるものが見えてこないのが,この世紀末であり,この混乱から抜け出すにはどんな幻想がきっかけになるのか注視していきたい。


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