読み感
  • 五木寛之作:こころ・と・からだ
この本は,筆者が人生の総仕上げとして言いたいことを少しずつ継続して積み重ねてきたものを,一冊の本にまとめたもののようである。このあと,違う出版社から今年「大河の一滴」が出版され,ベストセラーとなっているが,内容的にはほとんど変わらない。
この本は今の世の中の矛盾,病気,死生感等について,自分の考え方を強く打ち出したい,しかし,時期がは早すぎると思っている部分が,・・・・かという疑問符で終わる文章の数に表れているような気がする。
死生観から自分の人生を省みたとき,いかにつまらないか,たいしたことがないという感想を筆者は持っている。一方で,落ちこぼれている読み手側を勇気づける文が多い。
しかし,どのチャプタをとっても長年の多くの数奇な体験からくる人生の達人だからこそいえるものだと思う。人生の達人でも肉体的な差別(扁平足だから体が弱い)を受けたり,それなりの病気もちであったりする。このあたりを読むと私たちのようなごく平凡な人間からすると,大作家も過去いじめにあったり,持病に苦しんでいたりするのだなあと妙に安心したりしてしまう。
こころと体の不思議なかかわりかたをいまの世の中の人間は忘れているのではないかと私も思っている。筆者が言うように心の持ち方しだいで,病気がなおったりする自然治癒力を人間は持っている。
また,「物理の世界のエントロピーの法則(あらゆる秩序は時間の経過とともに次第に崩れてゆき,老いてゆき乱雑になってゆく。そして,一時的な回復はあったとしても決して最初にもどることはない。)と医学の世界のホメオスタシス(常に平和な安定的した状態に私たちの存在を保とうとする恒常的な力です。)のいずれかを人間は選択し,それぞれの人生を歩んでいる。生きていることはいいなと感謝したり,しょせん人間なんてとか人生ってなんてひどいものだろうの繰り返しである。」といった部分に十分納得できるものがある。いずれにしてもどん底を知りながら,前向きに生きなさいという気持で人間生きたいものである。


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