読み感
  • 立川昭二作:江戸老いの文化
戦後、無条件降伏によりアメリカ指導のもと、受動的な平和国家を形成してきた我が国は、順調だった経済が行き詰まるにしたがって、自立していない国家として、受け売りの民主主義・自由主義が政治基盤の脆さを露呈している。経済再建策もアメリカの顔を伺いながら、なかなか効果が出ていない。
21世紀未曾有の高齢社会を迎える日本、先が見えない現在、定説では歴史に学べとか他国に学べということになるが、自然環境の大きな変化は、21世紀に向けライフスタイルの変更を訴えているようでもある。
歴史を紐解くと筆者が言うように「老い」の文化としての江戸時代があり、そこには多くの学ぶべきものがある。スケールメリット、スピード、効率優先の現代社会においては、年寄りの役割が見えてこない。
現代の夫婦は後家さんになるケースが多いが、江戸時代は出産の役割がある女性は寿命が短く、男やもめのケースが多い。この時代は年をとることで自信を持ち社会の中での役割が明確にあり、生き生きとした男やもめの作家(上田秋成、貝原益軒、井原西鶴、杉田玄白、小林一茶、与謝蕪村、大田南畝、滝沢馬琴、神沢杜口等)の活躍が紹介されている。年寄りの技術・アイデアが生かせる場があったのである。
筆者は、「江戸の人たちの暮らしと生き方をとおして老いの価値を見直し、生老病死を『文化』として」考えるきっかけになれば・・・」と言っている。天下泰平だった江戸時代ではあるが、ひとりひとりがしっかりとした死生観を持っていたからこそ、年を取るにしたがって、自信がもて社会への役割が自覚できたのではないだろうか。
管理社会の現代であっても、21世紀を年寄りが充実した生活ができるものとするためには、遅くとも50代にはしっかりとした死生観をもつことが大切なポイントになるのではないだろうか。
また、薬についても面白い話が盛り込まれている。人為的な生命に対する危険がほとんどない平和な時代には、人は病気に対する考え方、健康への気遣いが、楽しく生きるうえで、大きなウェイトを占める。江戸時代も病気になったときの薬にブームのようなものがあった、作家先生が自分の雑誌に自分の薬をPRするのである。ただ、薬漬けの現代社会においては、ひたすら薬に頼っているが、自分の体に自信がない現代人とは違い、江戸時代は自然治癒力や自己回復力に確固とした信頼をおいてたうえでのことである。


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