読み感
  • 佐野眞一作:大往生の島
高齢化率日本一の町(65歳以上の老人が2人に1人),周防大島東和町にある,別名念仏島と言われる沖家室(おきかむろ)島。離島沖家室は昭和58年に悲願の橋完成で皮肉にも一段の過疎化が進んでいった島でもある。
あとがきの中に,筆者が僧侶を対象にした講演会の依頼を受けたという一文,瀬戸内海に沢山浮かぶ島の一つであるということ,そして,本の題名の「大往生の島」に引かれて読むことにした。
読み切って率直な感想は,死生観に支えられた人間の力強さと生きるとはどういうことなのかを教えられた気がする。
また,21世紀に加速度的に高齢化社会を迎える日本,その方向性に対してどんな社会基盤づくりをすべきなのかまだ見えていない政治屋たち,経済成長率優先,公共事業投資優先の施策に固執してこの不況を乗り越えようとしている。
21世紀は心の時代と言われながら,物質優先の消費文化から頭が切り替えられないまま,今を生きる人間たちにとって経済成長が望めない社会,高齢化社会の中で何が大切なことなのかを示唆してくれる書とも言えるのではないだろうか。
筆者自らの「なぜこの島に住む老人たちは,こんなにも明るく過ごしていけるのだろうか。なぜこの島に住む人たちはみんないい顔をしているのだろうか。
そしてこの島は老人ばかりなのになぜ淋しい感じがしないのだろうか。」これらの問いは90歳の老婆,80代の島ただ一人の医者,釣り鉤(はり)職人そして,泊清寺住職等への取材により明らかにされていく。
このうち泊清寺新山住職の言葉「この島の人たちは,学歴があるわけでもなければ,社会的地位が高いわけでもない。にもかかわらず死生観については,坊主の私の方が教えられる。・・・死を考えればだれでも寂しいものです。
この島の老人はだから考える前に,お経を唱えるというんです。お経を唱えていると,仏さんの懐に抱かれたようで気持が安らぐというんです。」になぜの答えがある。
無神教,信仰心をもちあわせていないわが日本現代人,苦しいときの神頼みだけしてきた,特に仕事仕事に追われ定年を前に過去を振返った時,心のぽかんとあいた空白が埋められない団塊世代へ送られるべき書ではないだろうか。


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