読み感
  • 曽野 綾子作:完本戒老録
初版本は昭和47年だから25年前に出版され,筆者が42歳の男で言う厄年がスタートになっている。昔であれば,急激に衰えてくる頃であったと思う。この時点から筆者は老いていくにあたって人間はどうあらねばならないのか,老人心得帳とでもいうべきものをこつこつと積み重ねて,徐々に充実していっている。
1項目,1項目の処世訓は,本題に「戒老」とあるように「年老いればすべてが許されると思う人がいる。一種の甘えである。」等の年を重ねても決して人に甘えていいことではないと,非常に自分自身に厳しくありたいというものがほとんどである。
筆者が老人を何才からとらまえているのかは知らないが,いずれは迎える死について,またそれまでの生き方についていわゆる死生観も多く挿入されている。
特に「生と死は老いの一時期に急に濃密になってくる。それをいかように受けとめるかは個人のたった一人の事業だ。それはうまくやったほうがいいと思うが,うまくやれなかったとて別にどうということはない。
人間の成功と失敗の差は意外なほど小さいと私は思う。」の部分は,人生一人一人がいろいろな生き方をするように,いろいろな死に方がある。どんな死に方をしようがどんな生き方をしようが大差のある物ではないという,達観した考え方に敬服する。
はっきり言えば死んでしまえば何も残らないし,(偉くなると自分の碑や銅像をどうしても残したい人がいるが)残そうとする必要もないと思えば,肩の力がすっと抜けて軽くなってくる感じがする。


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