読み感
  • 井上昌俊作:人は人によりて人になる
人はとかく成功した話を人前でしたがり、逆に失敗したことは隠したがる。この本は失敗から得た人間生活の知恵というものがふんだんにあり、筆者もあえてその失敗をさらけだしている。人は地位、名誉や財力のいずれかを手に入れた時、天狗になりまわりが見えなくなり、人の話に耳を傾けなくなる。人間社会で生きていく限り、人と人の関わりは避けて通れない。人は孤独な時間の中で自分というものを考えることも大切なことであるが、筆者の言う「共に生きる」という言葉に、63年間の人間生活・夫婦生活の中で5回の闘病生活から得た貴重な体験が凝縮されている。
私事であるが、結婚生活20年を迎え、筆者の言う結婚相手に愛が生まれ深まる過程@忍耐A理解B尊敬C愛でいうと、筆者が結婚生活35年でやっと愛の過程に入ったと言われていることからすれば、私たちはやっと理解から尊敬の過程に入ろうとするところか。
結婚はお互いに育った環境が違う他人が同じ住居で生活するのであるから、最初の過程の忍耐というのはあたっているし、自分の経験から考えても納得がいく。
この本は筆者が体験で得た人生訓というものがちりばめられているが、とても読みやすく理解しやすい、講演を重ねる中で聴く立場で考えられネタが練られ、話し言葉的に書かれているからなのかもしれない。ちょっと人生につまずいたとき開いてもう一度読めば心の中が洗われるのではないだろうか。特に筆者は日常の「ちょっとした思いやり」が大切であると説くが、ゆとりのなくなった現代人が一番忘れている言葉なのではないだろうか。今日から早速「ささやかな思いやり」を実行していきたいと思う。そんなことを考える機会を与えてくれたこの本に感謝したい。


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