読み感 |
やはりそれは死というものを身近に体験できなくなった時代のせいではないだろうか。と筆者は言う。また,人生はプラス思考だけでは生きられない。「人は泣きながら生まれてくる。」「生老病死」をありのままの姿でみる立場こそ史上最大のマイナス思考であるとも述べている。そして,マイナス思考のどん底のなかからしか本当のプラス思考はつかめないと。 「生老病死」ひとつひとつの言葉を人間として受け止め,そして「喜怒哀楽」喜んだり,怒ったり,哀しんだり,楽しんだりを思い切り表現することが,人間の生命力を活性化し免疫力を高めることになる。要は人間がより人間らしく生きることが大切なのではないだろうかと思う。今の世の中,特にサラリーマン社会は管理社会と言われるように,人間が人間を管理する時代だと言われている。多くの人が常にストレスを感じながら,自分を押さえ込み,金太郎アメのごとく振る舞っている。そんなことは打ち破って,もっと人間らしく生きようよ!とよびかけているような気がする。 一人一人の人生についての考え方「人間たちに成功した人生,ほどほどの一生,あるいは失敗した駄目な生涯,というふうに区分けすることに疑問を持つようになりました。生きている。この世に生まれてとにかく生きつづけ,今日まで生きている,そのことに人間の値打ちというものがある。<生きる>ということは<あれかこれか>という二者択一ではなく<あれもこれも>という包括的な生きかたをするほうがいいのではないか。」は,曽野綾子著「完本戒老録」の中に「一生の間に,とにかくも雨露を凌ぐ家に住め,毎日食べるものがあったという生活ができたなら,その人の人生は基本的に成功だったのである。別にどうということはない。人間の成功と失敗の差は意外なほど小さいと私は思う。」に, 癌に対する考え方「ゆっくりと自分の結末を迎えることができる癌などという病気は大変恐ろしいものではありますが,ある意味では幸運な病気だという気もしないでもないのです。そのあいだに人間にふり返って自分の人生をたしかめたりあるいは反省したりすることもできる。」は,中村仁一著「幸せなご臨終」の中に「なぜガンで死にたいか,比較的最後まで動くことができて,意識清明を保て意思表示が可能,死ぬとはどういうことかを,わが身をもって肉親に学ばせようと考えるから」に重なるものがある。 筆者は外地での敗戦と引き揚げという大きな体験をし,戦後復興,高度成長時代,バブル崩壊の時代を生き抜き,そして阪神淡路大震災,地下鉄サリン事件,中学生による小学生殺人事件等,どうにもならなくなった現在の世の中を見るにつけこの本を書く気になったといういきさつからも,心動かされるものが多くある。 |