読み感
  • 岩波書店編集:定年後
この本は第一部が「定年後への視点」で、社会でいう先生方からの助言・考察・展望、第二部が公募手記で「私の定年後」、第三部が「知っておきたい手続き・仕組み」の三部構成からなり、5百ページにもわたる。
 「定年後の視点」では、やはり男の定年後について、決まり文句みたいになった「熟年離婚」「粗大ゴミ」「生ゴミ」にならないための心得というものばかりである。
 読みながら,これから10年以内に定年を迎える団塊世代の私にとって、なるほどと思い当たる行動・態度は思い浮かぶが、先生方がおっしゃるようにすれば、軟着陸できるかどうかの自信は全くない。考察という言葉は,学者の世界の専門用語で,あまりいただけないし,あまりにもとっつきにくい。
 一方で、なんとかなるという気持ちはある。確かに仕事ばかりしてきた企業組織の人間から、地域社会の人間へと移行するのはかなり苦痛が伴うだろう。しかし、効率とかスピードを優先してきた企業社会から離れるのであるから、急がなくてもゆっくり考えて助走から入っていけばよいのではないか。
 日本人は、一律に皆がするようなことをしておけば安心できる人種だが、組織の人間から離れた以上、せめて自由にそれぞれが考えてやればよいことで「百人百様の生き方こそ、生き甲斐が感じられ、百人百様の老後にこそ生きる輝きがある」のフレーズが一番耳にここちよく響いてきた。
 先生方のおっしゃる助言は、どちらかといえば立派過ぎて、できそうにもない気がする。定年後の家庭での亭主のタイプを分析したものには、その辺の週刊誌の興味本位の評論でしかない。世の奥様方においても、多くの人は既成の文化教室等々でそれぞれの時間を楽しんでいるのであるが,そのタイプの分析も一緒に載せて欲しかったのだが。忠誠心の塊である男が組織から離れてどうなるのかは,ネタとして結構面白いようである。
 男女での大きな違いは、ネットワークが地域に根差しているかどうかの違いでしかない。亭主どもも定年近くなれば、人見知りをせずに、企業内でうまくこなしてきた人間関係論を気軽に応用すればよいのではないか。
 やはり,公募作品が生々しくて,泥臭くて好感がもてる。その中でも特に女の視点からの定年後の亭主との会話の中に,痛烈な皮肉が,関西弁で軽妙なタッチで描かれている−妻の定年−作品は圧巻である。
 また,「密かなるプラトニックラブ」という作品には,@定年前に内緒の金をつくり貯金をする。Aよい意味での女友達をつくり生涯交際する。実際に食事をしている女友達がいることを吐露している。しゃべってしまえば密かなるにならないと思うのだが,もう時効だからか・・。私の場合,つい異性となれば下半身を意識しすぎて不倫とかを考えてしまうが。この方はそうではない,考えすぎか。
 定年時のセレモニー後の帰宅,家庭のこと地域のことはすべて妻まかせ,この日から妻の長年の鬱憤が爆発していく−妻の逆襲,そして−作品には迫力がある。いい状態になっているから語れる作品だろう。現実は多くの熟年離婚を生んでいるのだろう。
 おわりに,投稿者に学校の先生方が多いのが気になるが,十分に参考になるものはある。同じ生き方はできるものではないが,それは自分自身で見つけていく以外にはないように思う。せめて会社に左右されずこころのままにできればと思うが・・・どうなるだろう。
 
 


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