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§§死には近くなったが詩にはまったく縁がない§§ §§書く才能もない、書けないなら人の書いたいい詩を§§ §§老いと死を見つめた詩を・・・・・・・ |
ヘルマン・ヘッセ作:(岡田朝雄訳) |
<<兄弟である死>> 私のところへもおまえはいつかやって来る おまえは私を忘れない そうすれば苦しみは終わり 鎖は断ち切れるのだ まだおまえは縁遠くはるかなものに見える 愛する兄弟である死よ おまえはひとつの冷たい星となって 私の苦境の上空に輝いている けれどいつかおまえに近づいて来て 炎を上げて燃えるだろう 来るがいい愛する兄弟よ私はここにいる 私を連れて行け私はおまえのものだ <<老いてゆく中で>> 若さを保つことや善をなすことはやさしい すべての卑劣なことから遠ざかっていることも だが心臓の鼓動が衰えてもなお微笑むこと それは学ばなくてはならない それができる人は老いてはいない 彼はなお明るく燃える炎の中に立ち その拳の力で世界の両極を曲げて 折り重ねることができる 死があそこに待っているのが見えるから 立ち止まったままでいるのはよそう 私たちは死に向かって歩いて行こう 私は死を追い払おう 死は特定の場所にいるものではない 死はあらゆる小道に立っている 私たちが生を見捨てるやいなや 死は君の中にも私の中にも入り込む <<五十歳の男>> 揺籃から柩に入るまでは 五十年に過ぎない そのときから死が始まる 人は耄碌し張りがなくなり だらしなくなり 粗野になる いまいましいが 髪も抜け 歯も抜けて息がもれる 若い乙女を恍惚として抱きしめるかわりに ゲーテの本を読むわけだ しかし臨終の前にもう一度 ひとりの乙女をつかまえたい 眼の澄んだ縮れた巻き毛の娘を その娘を大事に手にとって 口に胸に頬に口づけし スカートをパンティーを脱がせる そのあとは神の名において 死よ私を連れて行けアーメン |