今週のおすすめ本


ブック名 孤独をいききる
著者 瀬戸内寂聴
発行元 光文社 価格 479円
チャプタ @孤独とは
A孤独との出逢い
B愛の中の孤独
Cマイホームの中の孤独
D失った愛の中の孤独
E男の背中の孤独
F未亡人の孤独
G愛人の孤独
H別れなくても孤独
I空閨の孤独
J男の方が孤独
K老いの孤独
L孤独を生ききる
キーワード ・愛,孤独,こころ
本の帯 人はひとりで生れ,ひとりで死んでゆく。恋人がいても,家族に囲まれていても,しょせん孤独。群れていても,若くても,老いても孤独。
気になるワード
・フレーズ
・もし自分は孤独でないと思うなら,それは一種の幻覚にすぎないと思います。孤独で寂しいのが当たり前なのです。自分が寂しいから人の寂しさもわかる。自分はこんなに寂しいんだから,あの人もきっと人恋しいんだろうと思いやった時に,相手に対して同情と共感が生れ,理解が成り立ち,愛が生まれるのです。愛とは思いやることです。
・「孤独とは,自分のまわりに人がいないために生じるのではなく,自分にとって重要だと思っていることを他者に伝えられないことや,自分が他人の許容することの出来ない何らかの観点をもつことにより生まれるものだ」(ユング)
・私は非常に我儘な人間でわりあい自分がなんでもてきぱきするので,さっと行動を起こしてかたづけるから,昔は愚図な人たちを見たら腹がたってしかたがなく「なんでこんなにのろくさするんだろう」とか思ったものです。でものろのろするということはよくみると,丁寧にしているので,私みたいに大雑把にしていないということに気がつきました。
・性という字は心を生かすとも,心で生きるとも,心を生むとも読めます。なかなか意味深長な字だと思いませんか。セックスとは愛する心を生かす行為です。愛する心で生きる行為です。愛する心を生む行為です。
・自分の良さは自分が知っているのだから,それを認めて慰めたりほめてやったりしなければ自分が可哀そうでしょう。
・自分の考えを人に押しつけないことです。親切ややさしさの押し売りくらい,相手にとって迷惑なものはありません。
・人間の心は,すべての現象と同じ無常で,いつ変るかわからないのです。一方が変らなく,他方だけが変ってしまうことだってよくある例です。
・心にゆとりが生まれたら,あなたはもっと孤独とつきあう方法を発見していく筈です。孤独は外にしか向いていなかった眼を自分の内に向けます。人と交わる時間がすべて自分ひとりに向けられるのですから,これまで以上にあなたは自分を発見していくでしょう。
・彼女たちのフラストレーションの原因はつまるところ、これまで家のため夫や子供のため尽くしてきたのに、ふと気がつくと、子供は全く自分の世界を持っていて、夫は夫で自分の仕事の上で成功して、これも今更内助の妻の手など必要としなくなっている。子供は、自分の心のうちなどもはや母に話そうなどとはしないし、夫は仕事づきあいで忙しく、家で夕飯を食べることさえほとんどなくなっている。
・いったい自分はこれまで何のために誰のために生きてきたのだろう。家族の誰にも必要でなくなった自分は、これから何を目標に生きていけばいいのだろうか。
・どんなに老いを自分の上に認めまいとしても、それは死と共に逃れられない人の運命なのだから、今更びくびくしないで、この老いを受け入れ、手なずけてしまう方が賢明じゃないでしょうか。
・たしかに、私たちはいつか襲い来る老いを迎えるためには、自分は決して特別の人間ではなく、誰もが受ける老いの印を必ず万人と等しく額に押されるのだ、それは当り前で、恥しいことでも、屈辱でもないのだと、つつましく老いを受け入れるべきなのだと教えられました。


かってに感想 瀬戸内寂聴氏の作品は初めて手にする。筆者紹介では,1973年(51歳)に得度し,現在77歳を迎え,近著に現代語訳された源氏物語全10巻は,6年間に及ぶ労作であると記されている。
 筆者の精力的な活躍はその年齢を全く感じさせない。
 この本は8年前に出版され,昨年文庫化されたものである。
 「孤独」という本のテーマに引かれ,書店で素直に手が伸びた。
 人は誰しも生きてきた過去を振返ったとき,いわれぬさびしさ・孤独感をいだいたことが 一度はあるのではないだろうか。何がきっかけでどんなことでかは人それぞれ違うだろうが。
 仕事がうまくいかなかったり,男女関係がもつれたり,家族に不幸があったり,そんなとき人はどうするのだろうか?「誰も分かってくれない」と愚痴をこぼしたり,相手といさかいをしたりと,私も含め多くの人は「相手に厳しく自分にやさしい」という,外に向かってはけ口を求めるものである。
 逆に自己を厳しく反省するあまり,ときには孤独感にさいなまれて,心も体もぼろぼろになり,最期には「死」を選ぶ人もいる。自殺者の多い現代は,孤独に押しつぶされた人たちの叫び声なのかもしれない。なぜの言葉より,その人たちに救いの手がさしのべられる位置に常にある筆者は仏様のような存在かもしれない。
 「そんなときは内なる自分とよく相談する時間が必要となっているのである。自分を見つめ,結果として人を大切にやさしくできるようになるのではないだろうか」と筆者は言う。「孤独」という文字がいくつも出てくる。「孤独」を生ききるヒントが発見できそうである・・・・。
 身の上相談のため,寂庵を訪れる人たちや,電話や手紙で相談をかける人たちに,やさしく説き聴かすように書かれている。はじめに「人間は生まれて死ぬまで孤独な動物だということが,70年生きてきた私のゆるがない感想です」とあるように「孤独」をテーマに13のチャプタで構成されている。
 タブー視されている「死」を意識する年ごろになった現在の私にとって,自分のこころに問いかけるフレーズが多くある。また,自由気ままな自分が人にいかに迷惑をかけてきたか,いままでの自分を反省するいい材料にもなる。「愛もこころも,無常である」と筆者はいい,かわらない愛・こころはないものと理解しなさいと言う。
 そして,「孤独でないと出来ない愉しみを思い出しなさい」ともいうのである。
 読み終わって率直な感想は,愛を知らない人への「愛の講座」と思えた。
 若くして夫を亡くした未亡人,妻子ある人を愛してしまいその間で苦悩する人,三度目の結婚相手とも別れたい人,母の期待が重荷になっている娘,愛に悩み孤独感を味わっている 人の多いことか。寂聴さんはそんな女性たちのために,大きく心を開いて待ち受けているのである。
一方で、ひたすら仕事に忙しく生きてきた男たちへ、愛のメッセージを送っているうら寂しいチャプタもある。
第十一夜「男の方が孤独」は、50代の4人の女性による座談会形式の話、少しフレーズを紹介してみよう。
「定年退職してもお弁当を持って、朝、時間通りに出て、時間通りに帰ってくる。その間電車に乗っている」「日本の男の人って、仕事だけだから、定年になって家にいるようになると、話題もないし、身の置き所もないのよ」「よくテレビで単身赴任の特集なんかして、留守の奥さんが『淋しい、淋しい』って言ってるでしょう。あれは嘘なんですって、スポーツセンターで聞いたけど、実はそうじゃないのよ、奥さんは大のびするの」
いつも仕事を理由に家庭をほったらかしの男たちよ、女房の演技は話半分と心得たがよろしい。定年後は会社も妻も面倒はみてはくれないのです。だったら、いまからでも遅くはない。自分が好きなこと探しをして早速やってみよう。定年後の孤独な毎日を生ききるためにも……。
 おわりに,「生ぜしもひとりなり,死するも独なり。されば人と共に住するも独な り。そひはつべき人なき故なり」(一遍上人)の言葉をじっくりかみしめたい。
 

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