今週のおすすめ本


ブック名 定年百景
著者 加藤仁
発行元 文春文庫 価格 633円
チャプタ 66景の定年後の人生ドラマ @会社人間から社会人間になったソニーの技術者
A表具師に変身した東京電力技術者の健康法
B趣味の仏画にうちこんで、ついに教室を開く
C生きがいと充実感が報酬の株式会社「ローレイ」
D自転車に乗って枠組みを脱出したTV報道マン
E「基本は笑顔」フラダンス世界大会で優秀技能賞
F「ボケ防止」詩情あふれる創作人形教室
G老人ホームに年下の観客を慰問する銀輪翁
H地球村の助っ人、国際交流で心が通じる喜び
I毎年1カ月パリに滞在、定年後は「大画伯生活」
キーワード ・第二の人生、転機、節目
本の帯 なし
気になるワード
・フレーズ
・弟の生き方は過去の延長そのものである。仕事のために単身赴任するのだ。 私はこの歳になって単身赴任はしたくない。いくら収入がよくとも嫌だ。私は 過去の延長を断ち切りたい。
・大企業に長くいると高慢になりがちになる。それで私は定年退職したらすぐ 再就職せずに”無”の状態をつくりたい。
・人は「一人雑誌」を出すことにより、生活に活が入り、常に緊張した日々を 持てるようになる。それというのも、たとえ半紙一枚程度のものでも毎日なに か書かねばならぬとなると、心はおのずと緊張せずにいられぬからである。
・挑りたいと思ったことを、とことん挑ってみた。この満足感はかけがえのな いものです。
・最初は模写から出発します。しかし、最後は自分流でなくちゃ面白くない。
・単独行は、自立の心意気を養うのによいものです。自由であることと、一人 ぼっちの孤独であることが一体となって道を行くのです。
・旅の中で、自分がどのようなものに関心が湧き、逆にどのようなものに興味 がないのかを吟味してみることにしました。そうすることで、自分自身に不足 しているもの、自分の特色が浮かんでき始めたのです。
・いわゆる晩年にさしかかる年齢、ここは思い立ったが吉日のつもりで行動に 移すのがいい。
・私の信念らしきものを申しあげると、”心を燃やせばからだもついてくる” ということです。
・さあやるぞという気にならない。目標がなくなっちゃったんだね。どうすれ ばいいのか、さっぱりわからん。
かってに感想 10のチャプタと66の景色・人生ドラマがある。登場人物は百人をくだら ないだろう。表面だけとらえれば、人生の勝利者のように見える。
 自分を見つめ病気・失敗を重ねながら、継続した積み重ねの中に新しいこと へのチャレンジが明るいものへと開けているようである。
 チャプタごとのキーワードには、50才という転機の時期、変身、開業、自 立、趣味、病気、旅行、それぞれのきっかけから第二の人生をスタートし、美 事に自分のものを確立している。
 中高年は体力は落ちても、知力は衰えないと言われてきだした。しかし、い ずれの編も、ご本人次第ということではないだろうか。
 フレーズの中に詩人相田みつを氏の言葉があった−「ともかく動いてみるん だね。具体的に答えが出るから」−このとおりである。とにかく、動かなけれ ば何も起こらないのは間違いない。
 ただ、団塊世代というのは猛烈に働いてきて、それも会社・組織のためにひ たすら働いてきたと思っている。定年を迎え、多くの空白の時間ができた時、 組織とは一体何だったのかとたぶんを思うのだろう。
定年後の人生は一人旅からのスタートになる。特に心配なのは、燃え尽きシ ンドロームで、退職時には、抜け殻になっているのではないだろうか。
 いずれにしても、ルポルタージュは面白い、この本には、自分もこれならや れるかもしれない、とにかくとっかかれば何かがみえるかもしれない。そんな 気持ちが起きてくる。やはり短編であり、少しの飾りはあっても事実であると いうこと、いいことばかりでなく失敗もふんだんにあるということからだろう か。
どの編も味があるが、自分が気になったものは、11編ほどあった。
 一人雑誌作成、表具師、仏画教室、シルバー会社創立、自転車旅行、フラダ ンス、創作人形教室、国際交流、パリ滞在で絵画、税理士試験パス、とにかく 多岐に渡っている。
 ほとんどの定年退職者は、15年かけて税理士試験パスという編の次のフレ ーズ−魅力的なひとであるが、その魅力を具体的に叙述するとなると難しい。 お会いし、かもしだされる人柄や雰囲気に接し、胸をうたれ、なかなかの人物 であると感じても、このなかなかを伝えにくい。
これまで数多くの定年退職者を取材してきていざ書く段になると、このよう な思いを抱くことがしばしばあった。−にあるようにほんとうに小さな、目立 たないチャレンジで取材対象になるものではないのではと思う。
 そして、あとがきにもあるように「定年退職者の多くは充たされない思いを 口にする。仕事がない、立場がない、行き場所がない、カネが足りない、趣味 ・ライフワークが見つからない、元気が出ない・・・・」といったないないづ くしの話なのである。
 いずれにしても第二の人生のキーワードは、あとがきにあるように「そのひ となりの『役割』を手にすることが望ましい」ではないだろうか。会社では知 らぬ間に分担が決められ役割が決まる。家族の中でも同じである。ただ、定年 後の役割は、現代のサラリーマンが一番不得手な地域社会での役割なのである。
 さらに言えば、その役割発見のためには「人の出会い」が大切である。それ にはまず自分でいろいろ興味と探求心を持って動いていみることなのである。 といまもう一人の自分に言い聞かせている。
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