今週のおすすめ本 |
ブック名 |
自然と人生 (副題)思うままにU |
著者 |
梅原猛 |
発行元 | 文春文庫 | 価格 | 470円 |
チャプタ | 42エッセイのうち主なもの @マルクスの復讐が始まる A仏教の危機 Bゼネコンと行基 Cリーダー7つの条件 D米がない E老いを生きる知恵 F小沢一郎と宮沢賢治 G隠居の思想 H植物の意思 |
キーワード | 死生観,老い,時代のリーダー分析,資本主義 |
本の帯 | 現代を思索する,梅原日本学応用篇!! |
気になるワード ・フレーズ |
・マルクス主義には,今なお決して否定することのできない重要な思想的契機が含まれているように思われる。それは,資本主義社会は欲望の社会であり,そのまま放置すれば富と権力の偏在を生み,不正義で不平等な社会を現出するという指摘である。 ・人間の利便のために自然をどのように改変してもよいという考え方は捨てるべきである。便といってもひとときの便にすぎない。自然は人間の知恵よりはるかに深い知恵をもち,手近な人間の便のために改造され,歪曲された自然は必ず人間に復讐するに違いない。 ・リーダー7つの条件 @孤独に耐えられること A時代の理念がその人に乗り移っていること B冷徹な理性をもたねばならないこと C修羅場に強いということ D怨霊を作らない。あるいは怨霊の鎮魂が巧み Eいち早く組織の危険を予知し,それに備える嗅覚をもたねばならない F私にこだわるな(無私ではなく自利利他) ・1993年冷害による東北地方の米不作,米がなくなったことは,第一次産業を軽視し,第二次産業すら時代後れとし,やれ情報産業だ,やれ使い捨ての時代だと浮かれている日本人をして,もう一度己の足元を見つめ直させるよい機会だと私は思っている。 ・マルティン・ハイデッガーが言っているように,ふつうの人間は死のことを考えずに生きている。死の忘却というものが生の条件であるように私にも思われる。それは今の瞬間が永遠に続くかの如き思いで生きている生き方である。 ・日本でいちばん流行した仏教は浄土教であるが,それは人間は死んでも念仏を唱えれば阿弥陀浄土へ行き,浄福な生活を送ることを保証している。 ・そればかりではない。それは法然において既にあり,親鸞においてはっきりと語られている思想であるが,いったん極楽へ行った人間に再びこの世に帰ってくる。そして,もはや欲望に支配される人間ではなく,念仏の菩薩として帰ってくるのである。 ・もしわれわれが子孫となって生まれ変わることができるとすれば,老年はまさにその死の準備のための時間なのである。そう考えると,老年は人生にとってもっとも大切なときなのである。 |
かってに感想 |
前週の「世界と人間」思うままにの第二段「自然と人生」,梅原猛先生のエッセイである。 このエッセイは7年前にすでに発表されたものである。 私も思うままに面白かったエッセイを紹介したい。 哲学者による時代の有名人の人間性の分析は実に面白い。筆者に言わせれば,ビートたけし,小沢一郎,貴乃花は,まだ大人になりきれていないそうである。 もっとも筆者でさえ49歳から大人になるためのステップに入ったということだから,大人にはなかなかなれないものらしいのだ。 儒学者高山彦九郎がなぜ東北地方の飢饉に興味をもったのかという話は,吉村昭著「彦九郎山河」で高山彦九郎を主人公にした作品を読んでいたので,ひとり頷きながら読ませてもらった。 リーダーの7つの条件については,いつの時代にもいろいろな人が本のテーマとして取り上げ,やれ家康型だ,秀吉型だ,信長型だと話題になるのであるが,気になるフレーズの中にあるように,怨霊を作らないとか,私にこだわらないという条件は実にユニークで面白い。 小沢一郎の人間性を分析しながら,「はっきり自分の意見と意思と道徳をもって人生を生きる日本人は,福沢諭吉の当時よりむしろ少なくなった」というように,小沢一郎が日本人はいくら自立しなければとか,二大政党論を声高にいってみても,日本人自体がついていけないのだと私は思ったのであるが,みなさんはいかがだろうか。 おわりに特に参考になったのは,「老齢を生きるにはどうすればよいか。それはあたかも人生が永遠に続くかのように生きるのではなく,人生が今日一日で終わるとすれば,この最後の一日をすばらしい一日にしなければならない。それは密のようにおいしい人生なのである。今日一日を精一杯生き,その一日をよく味わい,そして死が訪れても何の後悔もしないように人生を送れ。」というフレーズである。 |